Fortunate Link―ツキの守り手―


取り合えず、二人は場所を移動した。

今日の学園祭には使われていない旧校舎の裏の花壇脇。
大きな木々の陰になっている為、人目に付かない。

スイと呼ばれた男はこの初夏の陽気の中、サマースーツをそつなく着こなしていた。
ネクタイをしていないのは、クールビズに乗っかっているのか…。

普通なら浮いてしまいそうなその格好が妙にしっくり似合ってしまう、端正な顔立ちとスタイルを併せ持っていた。


「んーで、俺に何の用?」

蓮は投げやりな口調で尋ねる。

「とぼけるな。様子がおかしいと思って探ってみれば、こんな勝手な行動を取って…」

「うっさいなぁ」

頭を掻く。

「お前は俺の親か?俺が何しようといちいち口出しすんな」

煩そうに眉をしかめて、反駁した。

しゃがみ込み、ポケットからタバコの箱と愛用のジッポーを引き出す。



この相手の男の名前は、深海翠(フカミ スイ)。

蓮にとっては――嫌いではないが、たびたびは顔を合わせたくない相手。


「だが無理を押し通してまで高校に編入など…。勝手が過ぎる。立場をわきまえろと言ってるんだ」


「…立場、ねぇ」


カチリと蓋を開け、火を点けようとして…、

しかしそのジッポーを弾かれた。
他ならぬ目の前の男の手によって。


「俺の前で吸うな。有害物質を撒き散らすな。心肺機能に影響を及ぼし、将来の健康が損なわれるかもしれぬだろ」


「……ちっ」

忌々しげに舌打ちする。


蓮が翆とたびたび顔を合わせたくない理由の一つ。

それは、このように何かと面倒くさい相手だからだった。

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