Fortunate Link―ツキの守り手―
*
そこは棚に様々な楽器が収まっている小さな部屋。
その中央にある机に俺はぽつりと一人座っていた。
おもむろに、机の上に一枚の真っ白な紙を広げる。
その紙の上にペンを走らせた。
『水波雅(偽物?)=クレハ(?)
日暮夕月=冴月=母さん』
そして紙に書かれたその二人を両矢印で結び、その上に「知り合い?」と書いておく。
「はぁ…」
俺はペンを放り、盛大に溜め息をついた。
残念ながら俺は凡人の頭の容量しか持ち合わせていない。
これ以上、ややこしい誰かが現れたら、間違いなく容量オーバーになる。
その時、廊下を誰かが走ってくる足音がした。
俺は慌てて机の上の紙をぐしゃぐしゃっと丸めた。
次の瞬間、ガラッと勢いよく扉が開いた。
「見つけたわよ!守谷くん!」
部屋に入ってきたのはクラスメイトの数人の女子。
「うわっ…なんでここがバレたんだ…」
「保険医の先生が守谷くんの居場所はここだって教えてくれたわ」
彼女達の言う保険医の先生が誰のことだかすぐに分かった。
(…夕月さん……何してくれてんだ)
手に握る紙をさらにぐしゃりと潰す。
「――さぁ。観念して来なさい」
ガシッと彼女達に両腕を掴まれる。
「ちょっ、離せって……いや、離してください、お願いだから」
とはいえ女子相手に手荒なことは出来ない。
あっという間に、潜伏先の吹奏楽部の準備室から無理矢理連行された。