Fortunate Link―ツキの守り手―


将棋部の部室を出た俺は、一つ教室を隔てた向こうのすぐ近くの柱の影に隠れた。


……大変な目に遭った。

思い返すだけで鳥肌がボコボコとたつ。

まさかサトシの馬鹿があんな事を…。
馬鹿だとは思っていたけど、あんな馬鹿な暴挙に出るとは。

つい殴ってしまったけど気には病まない。
自業自得だ、あんなの。


ここでしばらくアカツキが出て来るのを待とう。

そう思いながら、壁に凭れて深々と息を吐き出す。


その前を男子の群れが通る。

何の気無しにそちらを見ていたが、しかしそいつらは通り過ぎずに俺の前でピタッと立ち止まった。


「――あれ」

そう呟きながら、まじまじと俺の方を見てくる。


そして俺もふと気づく。

「……あ」

見覚えのある男子生徒が数名そこに居た。

嫌な予感とともに思い出す。

確かクラスの喫茶に来ていた客だ。
しつこく名前を訊いてきたからよく覚えている。


「いやぁ、また逢ったね」

にへらと笑いながらその一人が近づき、声を掛けてきた。

その友好的すぎる笑顔が気持ち悪くて、寒気がした。


「…何だ。今一人なの?」

気持ち悪い笑みを浮かべたまま、馴れ馴れしく訊いてくる。

俺は首を振った。
喋るわけにはいかない。

「でも一人で居るじゃん」

「………」

…確かに今は一人だけど。

だんまりを決め込んだ。

「一人は寂しいだろ。俺らと一緒にいかない?」

首を振る。

…勝手にどこへでも行け。


「ちょっとだけ付き合ってくれたらいいからさ」

なおもしつこく誘ってくる。

どうやらマジで俺の事を女だと思っている模様。

こんなに至近距離で気づかないとは。サトシ並みに馬鹿だな。

< 355 / 573 >

この作品をシェア

pagetop