Fortunate Link―ツキの守り手―


「――あのぅ。デラックスって何なんですか?」

席を案内し、水とおしぼりを持ってきた水着姿のウェイトレスさんに声を潜めながら訊ねた。

なるべく男だとバレないよう、裏声を駆使して。


パレオを巻いたその女の子はにっこりと微笑んで答えた。

「デラックスといえばスペシャルよりワンランク上のカキ氷でございますよ~」

説明になっていない返答をくれる。

「えっと…そんなの…注文してないんですが…」

「仕方ありません。もうオーダー通っちゃいましたし」

笑顔を絶やさず答えてくる。

完全にこちらの意見を聞くつもりはないらしい。
ここは客に注文する権利を与えない店なのか。

「だからそんなの注文してねぇっつってんだろ」

アカツキも納得していない様子で言う。

「7番目のカップルのお客様にはデラックスカキ氷を提供するというのが当店の決まり事でございますから」

鉄壁の笑顔でそう言いきる。その面の皮は何で出来ているのか気になる。

「……ちっ」

アカツキは舌打ちして引き下がった。女子に対しては手荒い事をしない。

「そのデラックスとやらを拝むしかなさそうだな」

諦めたらしく、腕を組んで待ち構える姿勢だ。


するとやがて「おぉっデラックスだ」「来たよデラックス!」「ついにあのデラックスが!」という周囲の声とともに、その”デラックス”が運ばれてきた。


「こちらが当店特別メニュー、デラックスカキ氷でございます」


でん、とテーブル上にそれが置かれる。

そのデカさに目を剥いた。

金魚鉢のような深さのある入れ物に、こんもりと山のような氷が盛られている。

ハート型に切り取られたスイカが周囲に飾られ、脇にスプーンが二つ。

それらの装飾や備品がちっちゃく思えるほど、氷の量が凄まじい。

言葉を失い、驚愕とともに唖然とそれを見つめた。

……これはカキ氷というよりもはや氷山というべきか。


「制限時間は7分でーす!二人で協力し合って完食してくださいね!」


嫌がらせかと思うほどに明るく告げてきた。

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