Fortunate Link―ツキの守り手―
第15話:壊れゆく世界で
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「――若!若!」
ここは多くの人が行き交う空港の出発ロビー。
賑やかなその場所においても、その声は目立つぐらいによく響いた。
俺――こと瀬川蓮は、はぁ、と盛大に溜め息を吐き。
「なんやねん。もう…」
背後から追いかけてくる声に、スーツケースを引く手を止め、後ろを振り返った。
「やめてくれや。こんなとこで大声で呼んで。めっちゃ恥ずかしいやん」
そう言うと、追いかけてきた強面の男は必死の形相で俺に詰め寄ってきた。
「若。そんなことより、どこへお行きなさるつもりですか?」
「どこって。
ちゃんと置き手紙に書いてたやろ。
秋から海外の大学に留学すんねん」
「わ、わしら、そんな話これっぽっちも聞いとりません!」
「だって、そんな話をおまえらにしたら、絶対行かせてくれへんやん」
「当たり前です!大体、若は…」
「若、若、うるさいなぁ。
俺はもう組の頭やで」
「す、すんまへん。つい…。
では、これからは組長と」
「うーん。組長はちょっと響きがださいよな…。頭領のほうが響きがええと思わへん?」
「は、はぁ。
では、頭領と。――じゃなくって!!」
我に返ったそいつ――瀬川組の組員の山内は再度俺に詰め寄ってきた。
「若がいなくなったら誰が組を纏めるっちゅうんですか?」
その問いに俺はポンと山内の肩を叩いた。
「お前にまかせた」
「…ええーっ?!
ていうか、今決めたでしょ!」
「そうや」
俺はあっさり頷いた。
「お前らみんな仲ええし。何とかなるやろ」
「そんな投げやりな…」
「お前らなら大丈夫やて」
山内の肩を叩く。
「ちょっとだけ、俺に外の世界を見せてーな。
四年したらちゃんと戻ってくるから」
「若…」
「そんなしんみりした顔すんなや。
俺をここまで育ててくれて、お前らにはほんま感謝してる。
帰ってきたら、ちゃんとその恩は返していくつもりやから」
「若ぁ…」
「うわ。こんなとこでいきなり泣くなや…」
見た目の強面とは裏腹に心優しき組員に見送られ、俺は出国した。