Fortunate Link―ツキの守り手―
「……ゼッ……ハッ……ゼェ…」
肺から擦れ合うような息が漏れ出る。
肩が大きく上下する。
もつれそうになる足を引きずって、一段一段をやっと上がる。
屋上までの距離が途方もなく長い。
その長さに、知らず思考が悪い方向へ傾いていく。
脳裏に不安が掠める。
(……もし、アカツキが居なかったら…)
本当はどこにも居なかったら……?
そう思っただけで、底の無い絶望に足を取られそうな気がした。
ずるずる、と何も見えない真っ暗闇に堕ちていってしまいそうな。
(いや。そんなことは考えるな。今は考えるな)
ネガティブに向かう思考を振り払う。
最後の一段を上がりきる。
よろめきそうになってつんのめり、踏ん張った。
大きく息を吐く。
立ちはだかるは、鈍色の頑強な鉄扉。
屋上への入り口。
この先に――
ノブに手を掛け、体ごとで押しながら、その扉を開けた。
視界が一気に開けた。
鉛色に垂れ込めた雲。
その薄れた端から、少しだけ青空が覗いている。
一面に広がるコンクリートの床。
アカツキとも白石さんとも一緒にここに何度か来た。
すっかり見慣れた場所。
その、どこにも……。
「アカツキ…」
あいつの姿が見えない。
どれだけ見回しても見当たらない。
雲の薄れ行く空とは逆に、心には暗雲が立ち込める。
代わりに違う姿が目に入った。
奇妙な格好の男。
漆黒の法衣みたいなのを身に纏っている。
その上から袈裟を被っていた。
手には錫杖。
いわゆる”お坊さん”のような出で立ち。
顔は見た事ある。
妙に整った顔立ちの男。
杖を持っているところも変わらない。
ただし、前に会ったときはスーツ姿であったが…。
「また会ったな。守谷俊よ」
無表情のままそう言ってくる。
「お前は……」
「深海翠。物祓い師」
以前と同じく名乗り上げた。
覚えている。学園祭のときにやりあった、あの変な男だ。
だけど、今の俺にとってはそんなことどうでもよかった。
「アカツキはどこだ」
それだけを知りたかった。