Fortunate Link―ツキの守り手―
男は冷ややかな眼差しで、こちらを射抜く。
その視線で同じ温度の口調で告げる。
「知っていたとしても、貴様には教えぬ」
「……何だと?」
声を荒げて、聞き返す。
思わず詰め寄るように、そいつに近づいていた。
「つまりお前は……”知ってる”ってことか」
息巻くこちらを見ても、相手はどこまでも冷淡だった。
「月村明月は現実を捻じ曲げる事で作り出した歪みの、その中に居る」
表情を変えずに告げる。
「歪みは世界を蝕む。
だから私は今ここで歪みごと封じている。それが周りを侵食するのを防ぐために」
ゆっくりとその双眸を周囲へと巡らせる。
「だが、捻じ曲げられたとしても現実の流れは途方も無く大きく強い。
――いずれ歪みなど容易く呑み込むだろう」
「………何、言ってやがんだ」
苛々と問いかけた。
すると周りを見回していた男の眼が俺の方へと戻った。
真っ直ぐ、こちらに据え置かれる。
「――即ち、歪みもろとも月村明月は消える」
はっきりとそう言った。
冗談など入り込む余地も無い口調で。
「………なっ」
言葉を失った。
一瞬、頭が真っ白になる。
男は変わらず表情が無い。
何考えているのか全く読めない。
「世の理とはそういうものだ」
何の感情も無いような声で言う。
「異物や異常は自動的に排除するように出来ているんだ」
全てを見透かすような声で。
何もかも分かりきっていると言いたげな声で。
その態度が無性に――、
「…………てめっ」
――腹が立つ。
「アカツキが異物だって言うのかよ」
「今の世界にとっては、な」
はっきりと頷く。
「彼女が、今、世界をおかしくさせてる要因だ」
錫杖が揺れて、シャラン、と鳴った。
「歪みさえ消え去れば、世界は元通りに戻る」