Fortunate Link―ツキの守り手―
顔を上げ、前を向く。
終始変わらない表情でこちらを見ている、その男を見据えた。
途端に目が眩む。
その輪郭が、数瞬、何重にもブレて見えた。
(……負けるわけにはいかない)
どうあっても、自分は負けるわけにはいかないのだ。
この先――
あいつにまたツキを使わせるなんてこと――。
そんなことはあってはならないから…。
だから決して負けない。
刀を構え直し、男の方を見る。
ダラリ、と折れた左手をぶら下げたまま。
痛みに取られそうになる意識を、前だけに集中させた。
じっと男を注視する。
相手は佇んだまま固まっていた。
最初からその場から少しも動いていない。
先ほども最小限の動きで攻撃を捌いていた。
(……待てよ)
ふと気づいて、考えをめぐらせる。
相手は「歪みを封じている」とか言っていた。
だとすれば…。
もしかすると”動かない”んじゃなくて”動けない”のでは……?
そう考えて、さらに考えを練る。
もし動かないのだとしたら、積極的にこちらから接近して戦うやり方は上手くない。
離れて遠距離攻撃を仕掛ける方が――。
考えながら、袖の懐に手をしのばせる。
小型の棒手裏剣を握り締める。
(だけど。さっき簡単に避けてたよな…)
顔色一つ変えずに避けていた姿を思い出す。
しかも今、片手しか使えない。
続けざまに打てるわけではない。
考えを改め、木刀を抜いた。
その中身の刀身が露わになる。
(もう一回、あれを…)
瀬川を吹き飛ばした、あれを使えたら……。
再び意識を集中させてみる。
あの時を再現するように思い出して。
「――飛簾」
そして再びあの名前を呼んだ。