Fortunate Link―ツキの守り手―


……しかし。

忌々しいことに、こういう時に限って一向にあの声は聞こえてこなかった。


それでも。

めげずに意識が研ぎ澄まされていく、あの時の感覚を思い返す。


ゆっくりと呼吸を整えていって。

体の内と外、全ての流れに意識を注いでいって。

息を吸うごとに入り込んでくる、新鮮な力を全身の隅々まで行き渡らせて。

その力を膨らませていく。

膨らませて貯めていく。

全ての流れを一つに集めて――


(それを一気に噴出させるイメージ)


おぼろげながら、感覚を掴んでいく。

行ける、と自分を信じる。


目を見開き、標的を見定めた。

(――行く)

意を決して、刀身を水平にして構える。


その表面が微かにだけ光った。

淡く、ほの白い、緑の光を纏って。


(これだけでは足りない…)

直感的にそう感じる。


(だったら……)

刀を瞬速で薙ぎ払い、切り返す。

音速以上の速さでもって。

三日月の軌跡を描いて。


その閃きに風を纏わせて――。

音よりも早く、男の方へ鋭く向かっていった。


ゴォォォォォッッ

地鳴りのような唸りを轟かせて。


辺りにコンクリートの破片と粉を撒き散らせながら。

淡い緑色の燐光が辺りを包みこみ、舞い散った。



覆っていた煙と光が、引いていく。



その薄れていく煙に黒い影が映っていた。

「――この程度か」

男はその場から少しも動かずに立っていた。

何事も無かったように平然として。


(……なんだと)

渾身の一撃が少しの効き目も及ぼさなかった事実に愕然とする。


相手は片手を印を組んだように掲げ、片手で杖を構えていた。

その格好を見ても、どういう仕掛けでこちらの攻撃をしのいだのかは全然分からない。


「どんなことをしようと無駄だ」

感情の無かった声に、侮蔑が混じる。

「すべて時間の無駄に過ぎぬ」


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