Fortunate Link―ツキの守り手―
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「ごめんくださーい」
高らかに響いたその声に、深海翆(フカミスイ)は一瞬にして現実へと立ち戻った。
軽く頭を振って、気分を切り替える。
少々没頭しすぎていたようである。
今まで耽っていた綴り閉じの本を閉じて、腰を上げた。
着流し姿のまま、無駄のない動きで戸口の方へと向かった。
「こんにちは。スイさん」
にこにこと微笑む朗らかそうな婦人が立っていた。
「どうも」
翠は軽く会釈して、その相手を見た。
彼女は――、
「冴月殿」
「今は俊の母の、守谷香織(モリタニカオリ)よ」
「そうでした。失礼しました」
翆は、無表情で謝った。
「突然訪ねてごめんなさいね」
「いえ」
「どうしてもあなたにお礼を伝えたくて」
「そんな…礼を言われるほどのことをしておりませんが」
「いーえ。
あなたには10年前からずっとお世話になりっぱなし。
10年前、追われるばかりの私達に、親子として新しい名字と居場所を与えてくれた。
あれから10年間、ずっと結界によって、私達の存在を追手から隠し通してくれた」
「しかし、守谷俊の中に眠っていた風鬼の目覚めと共に、その結界は消えてしまいましたが…」
「ちょうど、いい頃合いだったのよ。
あの子もそろそろ一人立ちしないといけないしね」
翆は相変わらず無表情に、香織を見つめた。
そして、淡々とした口調で問うた。
「これからも、守谷俊に、月村明月を守らせていくつもりですか?」