Fortunate Link―ツキの守り手―

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翆が香織を見送り、戸口へ戻ると、そこに見知った姿が立っているのが目に入ってきた。


「おすっ」

軽く手を挙げて、男は笑う。

「なんやお客が来とったんかー」


「……蓮」

翆は平坦な声で相手の名を呟いた。

「お前、どこから入ってきた?」

「そんなん、どこからでもええやーん」

蓮は手をパタパタ振り、笑う。

「ていうか、なんか見たことある顔やったな。確か、俊の母さんやったかな?」

と、ぶつぶつ呟く蓮を無視し、

「……それより、お前のその荷物は何だ。どこかへ行くのか」

蓮の脇に置かれている大きなスーツケースを見やって、翆が問いかけた。

「うん。ちょっと海外に」

晴れやかな笑顔を浮かべて、

「もいっぺん、大学に入学し直すことにした」

翠は微かに目を見開いた。

「……何かあったのか」

「あったといえば、あったかもしれへんなぁ」

蓮はのらりくらりと答える。

「まぁ一応一段落ついたんとちゃう。お前だってそうやろ」

翠の方を見て呟く。



翠はその意図するところを察して目を細めた。

「何も終わってなどいない」

険しい表情で遠くを見やる。

「まだ因縁は断ち切れておらぬ――」


蓮は笑みを引っ込めた。

全てを見通しているように、要らない言葉は掛けなかった。


一転して真面目な口調で問いかける。

「それは……”どっち”との因縁や?」

翠はスッと目だけを動かして、蓮を見た。

「――守り手の方だ」



その無表情の上に険を光らせた。

見えない敵を睨むように、虚空を凝視する。


「もしも――あの男の『守る』という意志が本人のものでなくて、他の”存在”による意志が働いているせいだとしたら…」

重々しく告げる。

「――そうだと知れば、いつでも私は守り手ごと諸悪の根源を断ち、滅するつもりだ」

純粋な本気の色を含ませて言う。

殺気さえこもっているような響きがあった。

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