Fortunate Link―ツキの守り手―
*
「……はぁ。
なんで、こんな格好しなきゃいけないんだか」
俺は深々と溜め息を吐いていた。
人生で初めて、タキシードなるものを着てしまった。
「いいじゃない。
とってもよく似合ってるわよ」
そう言いながら、ロビーへと続く大階段を優雅に降りてくるのは――、淡いピンクのカクテルドレスに身を包んだ白石さんだった。
胸元には煌びやかなネックレスが燦然と輝いている。
それらが嫌味なく似合ってしまうあたりが、彼女がお嬢様たる所以なのだろうか。
「お世辞はいらん」
「あら。本気で褒めたつもりだったのに」
そう言いながら、俺の前に立ち、手を伸ばしてくる。
その手は慣れた手つきで蝶ネクタイの歪みを直してくれた。
「ほら、可愛い」
言ってふふっと微笑む。
「……からかわれてるとしか思えないんだけど…」
「こういうことは素直に受け取るべきよ。
――って、そんなことを言ってたらほら。
あなたが一番褒めてあげなきゃいけない人が来たわ」
白石さんは、今しがた自分が降りてきた階段の上を指し示して微笑んだ。