水の国の王子様は従者を溺愛中!
どのくらいの時間が経ったのかわからない。
隙間から何度も閃光が見えて怒号と、泣き叫ぶ声……
辺りが真っ暗になってからようやく何も聞こえなくなって、私は恐る恐る外へと出た。
人の気配は一切ない。
城内へと進むと城内は焼けた跡と水浸しになっていて何度も人と思われる遺体に躓きそうになる。
誰か生き残ってる人を探して何とかいつもの私達の控室へと辿り着いた。
控室の中は窓から入る月明りが少しだけ明るく照らし出していた。
私はどうしてここに来てしまったのだろうか。
年齢の違う私を受け入れてくれて、いつも優しく温かく仕事を教えてくれて共に過ごした仲間達は全員黒焦げになっていた。
泣き叫ぶ事も出来ずただ涙だけが止まらない。
……家に戻って家族の安否も確認しないと。
辛いけれど、いつまでもここで泣いていたらライマーレ軍の残党に見つかるかもしれない。
壁に手を当てて暗い中手探りで出口を探しながら歩いた。
城内は入り組んでいて大体中は覚えたはずだけど、真っ暗で何も見えない上に焼け落ちているところも多くて道が全くわからない。
生きてる人が誰もいない…アクアヴェールはあっという間にライマーレに制圧…いや、全滅させられてしまったのかな…?
カイ様も……?
ここでの初日にお会いしたカイ様の姿を思い出すとまた涙が溢れて来る。
泣きながら出口を探して歩いていると、壊れた扉を見つけてそこを跨いで先へと進む。
外に出られるところがあれば月明かりが見えるはずだけど…
すると、進む先に月明かりでもなくランプの明かりでもない明かり光が見えてくる。
もしかして朝日…?
その明かりに吸い込まれるように進んで近くまで来てからやっとハッとした。
ありえない状況が続いて完全ちゃんとした判断が出来なくなっていた。
こんな明るい光少し考えればわかる事なのに…
自らライマーレの軍に近付いてしまうなんて。
急いで音を立てない様に近くの瓦礫の陰に隠れる。
「うぁッ……も……良いだろ……ッ……もう…止めてくれ………早く俺を……殺してくれ……頼む……クッ……」
カイ様の声……!?
「そんなにもう抜け殻のノーフォース達が大事ー?アクアヴェールの王子様?そもそも王子様がこんな役立たずを守る為に抵抗なんかしなければこんな事にはならなかったの!お前の親父も同じか。アクアヴェール国民全員ライマーレの捕虜にするって要求呑んでたら殺しまではしなかったのに!全部アクアヴェールの王族の判断ミスだなぁ」
「なぁ!早く戻ろうぜー!こんなジメジメしたところで王子痛めつけなくても持ち帰ってゆっくり拷問のおもちゃにすればいいじゃん」
「ふざけッ…早く殺せよ!水のフォース全滅すれば気が済むんだろ!」
「お前は殺さないよ、うちのマダムのお気に入りだもん。一匹はうちのフォースの力増幅用に取っておけって」
「こいつだっけ?マダムのお気に入りは三男って聞いたけど」
「あれは序盤でノーフォースの女庇って一軍の奴らが殺しちゃったし、居ないよりいいだろ?顔は似てるし。三兄弟どれでも変わらんって」
「どうせなら女が良かったけど……まぁ、コレなら顔は綺麗だし男でもいいかぁ!男同士でも快感すげーのかな?」
「俺は男に興味無いからやるなら帰ってからヤレよ。暴れると面倒だからちょっと寝ててくださいね。王子様」
「ぐあッ……」
声のする部屋から強い光が出てカイ様の声が聞こえなくなった。