水の国の王子様は従者を溺愛中!


安直な事を考えていると、カイ様が慌てた様子で箱から出て突然私を強く抱き締めた。

「!?」

「時間がない。何も聞かずに指示に従って欲しい。これから10秒カウントしたら出来るだけ長く息を止めるんだ。パニックにならずに静かに息を止めていれば長く止めていられる。それから俺は絶対に君を離さないから君も俺から絶対に離れないで。いい?」

「は…はい……?」

何が何だかわからないけれど、お城の青白い光はいつの間にかかなり大きな光になっている。


「…数えるよ?10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…息を止めて!」


私は目をギュッと閉じて、言われた通り息を止めた。

すると、一瞬にして私の体は水の中にいた。
驚いて私はしっかり抱き締めてくれているカイ様にしがみついた。

パニックにならないで落ち着いてって言われたのに、水を飲んでしまった。


やば…溺れ……


息が続かず溺れそうになると、突然カイ様と唇が重なり口の中に空気が入ってくる。

よく見るとカイ様の体の周りには空気の膜の様な物が張られていた。

唇が離れるとカイ様は手で遠くを指さしてここから移動するから鼻を摘んでといったジェスチャーをしていて、カイ様は私を抱えたまま水の流れる方向へと泳ぎ出した。


カイ様に身を任せて、鼻を摘んで落ち着いて静かにしているとカイ様の言う通り長く息を止めていられる。


でも……もうすぐ限界かも……


ザバッ!!


ギリギリの所で水の中から出る事が出来た。


「ハァハァ……カハッ…」

「無理させてしまってごめん…」

「だ…大丈夫です……一体何が……?」

「あれを放ったのは父上と兄上だ。二人が水の力を最大にして、ライマーレに向けて放った…まだ生きていたんだ…」

顔を上げると、抜け出した水の空間のような物はライマーレの城へ向かって伸びていて遠くに見えるライマーレのお城へ直撃している様に見える。

「君を危険な目に遭わせてしまって申し訳ない…フォース持ちは自分のフォースでは死なない様に俺達であると空気の膜が張られて絶対溺れる事はないんだけど、膜が張られるのは自身だけなんだ。空気の供給とはいえ唇を奪ってしまってすまない」

「唇……いえっ……空気の供給してくださっただけですから!」

そうだ……私、さっきカイ様と……違う!アレは空気の供給だから…!
それに今はそんな事で動揺している場合じゃない。

「しかし…アクアヴェールからだいぶ移動した上に流されてしまったな…道もわからない上に夜の森は危険過ぎる」

「私、何処か朝を待てる場所を探して参ります」

「いや、一緒に行動しよう。森は迷いやすいし、危険だ。女性一人には出来ない。はぐれたら合流出来なくなるかもしれない」

「……はい」

何だか……結局私って何の役にも立ててない気がする。

カイ様と森の中を歩いているとカイ様は声を上げた。

「山小屋だ…」

「わ…朝まで休めるかもしれませんね」

「あぁ、でもここはライマーレ国領だ。中に誰がいるかわからないから先に俺が確認する。君はそこで待っていてくれ」

「でも…カイ様は傷だらけです…ご無理させられません」

「問題ないよ、水の力を使える程には回復してるから何かあれば君の事も守れる」

本来なら使用人である私が例え掃除担当であっても何かあれば身をていしてカイ様をお守りしなくちゃいけないのに…

カイ様は小屋をノックして、中に人がいるか警戒しながら確認をしている。

扉に手をかけると、扉が開いて手招きをされて一緒に中に入る。

「…中を確認するから君は扉の前で待ってて。何かあったらすぐに外に逃げるんだ」

カイ様はそう言うと奥へ入って行った。

きっとカイ様はあの部屋で従者や使用人を守る為にライマーレの軍勢と一人で戦ってくれたんだ…

アクアヴェールの王族は皆国民を最優先に考えてくれていたんだ…自分達がどれだけライマーレにいいように虐げられようとも…

こんなにも優しい人達を虐殺するなんてライマーレ……許せない……。

するとカイ様が向かった奥の部屋のランプが灯って、カイ様はこっちに戻ってきてこの部屋のランプも点け始めた。

「ここは朝まで過ごしても問題ない。奥の部屋の寝室のベッドに御老人のご遺体があった。恐らく一人で暮らしていて孤独に亡くなったのだろう…御老人には申し訳ないが、朝まで家を使わせて貰おう」

ランプが灯るとカイ様の姿がやっとハッキリと見えた……

「ハッ!申し訳ございません!何も見ておりません!」

「あ……すまない…奴等に全部脱がされたままだったんだ…」


見るつもりなかったのに、少し見ちゃった…!


馬車の時点で裸だったのは分かっていたけど、色々あり過ぎて辺りは暗くて見えなかったから今の今まですっかり忘れてた。

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