婚約破棄、それぞれの行く末
「お前は事もあろうに僕のアルマを侮辱していただろう。そんな者は僕に相応しくない!」
王妃どころか側妃にもしたくはないとの気持ちで吐き捨てるレナートに、周囲がざわつく中、恋人のアルマは泣き出しそうに微笑み、
「まあまあまあ!」
オリビアはそれ以上の満面の笑顔で目を輝かせた。
不審に思い怪訝な表情になるレナートだったが、オリビアは畳んだ扇を捧げ持つように両の手を合わせる。
「真実の愛! 素晴らしいですわ!」
今にも駆け寄ってきそうな圧を感じ、レナートは思わず一歩退く。
「アルマ様は男爵令嬢でしたかしら。王太子と縁づくには身分が足りませんが、レナート殿下はそれでも構わないとおっしゃるのですね!」
「あ!? ああ、身分に何の問題がある! そんなものは僕たちの愛の前では障害になどならぬ!」
男爵令嬢、とオリビアが口にしたことに反応したレナートが、先ほど退いた分を詰めるように前へと踏み出す。
自分の侯爵令嬢という立場と比較してまたアルマを馬鹿にするつもりなのかと思い、負けじと胸を張って言い放つ。
しかしオリビアの口から飛び出したのは「素敵!」という賞賛の声だった。
「レナート殿下は愛をお選びになった! なんとロマンティックなストーリーなのでしょうか! 身分も立場も関係ない、ご自身がお持ちであったすべてのものよりもアルマ様を! ただ一人のお相手を!」
想定外の反応に戸惑っている間にも、オリビアは言葉を繋いでいく。
「想いを成就させるため約束された将来をお捨てになる覚悟のほど、感動いたしました」
「……は!?」
「これぞまさしく真実の愛ですのね」
うっとりと、 レナートの恋物語に酔いしれるように。
「なに、を、言っている……」
その物言いにどうしたことか嫌な汗の噴き出したレナートは、すぐそばまで来ていたアルマの腕を取り引き寄せる。
どこか縋り付くような自分の行為に動揺するが、アルマは潤んだ瞳でレナートを見上げて抱きついた。
「レナート様、まさか本当にあたしを選んでくれるなんて!」
「い、いや、僕が愛するのは君だけだと前から、」
「それでもあなたは王太子だったのに、あたしのためにそこまでしてくれると思わなかったの」
そう言って泣き出したアルマと抱擁を交わしたものの、レナートは妙な緊張に呼吸が浅くなるのを感じていた。
王太子……だった、のに?
まるで過去の話であるかのようだ。王位を継ぐべき存在は自分だけであるはずなのに。
「アルマをオリビアから守ろうとだな、」
「どういった立場になるにせよおそばに置かれるのなら、ある程度の嗜みは必要であろうと指導してはおりましたが」
「あたしオリビア様のようになりたかったのに全然思うようにいかなくて、泣いちゃうくらい悔しくって」
アルマは拗ねたように唇を尖らせ、レナートが顔を上げた先のオリビアは、扇を頬に添え優雅に微笑む。