婚約破棄、それぞれの行く末

婚約者の未来



「レナートの王子として最後の夜だ。誕生日、婚姻、レナートの門出を祝ってやってくれ!」


 誕生祭から結婚祝いへと姿を変化させたパーティー。
 本日の主役は主役のまま、しかし主役を置き去りに宴は進む。

 楽団の演奏は予定よりも幸福めいた曲を奏で、学友たちはパートナーとともにダンスで華を添え、側近候補だった令息たちはレナートの決意に感動の涙を浮かべていた。

 エルナンドは先王妃たちに無言の目礼で詫びる。

 妃を迎えていない現王家、だからといって妃たちが担う執務が無くなるわけではない。王太子妃として教育を受けてきたオリビアもいくらかは仕事をこなしてはいたものの、それだけで回るはずもない。そこを補ってきたのが先王妃たちであった。

 だというのに、その息子であるレナートを王太子として導けず道を違えさせてしまった。母親の忠告すら真摯には聞き入れなかった者とはいえ、その責任を重く受け止めて。

「陛下」
「ああ、オリビア嬢」

 そっと呼びかけたオリビアに、エルナンドは疲れた顔を垣間見せる。

 王太子との婚約のなくなった今、ただの侯爵令嬢から国王へと声をかけるのは不敬ではあったが、彼女の年齢とほとんど変わらないほどの年月を、時に厳しく、時になごやかに、過ごしてきた。
 いずれは父娘のようになる予定だった関係。咎める者がいるとしても、今夜くらいは見逃されるはずだ。

 慣れ親しんだエルナンドの態度に、オリビアは先ほどまでのやり取りで強ばった目元をやわらげる。

 今回の件に限らず、レナートの優秀は優秀であったがゆえの自尊心の高さから来る言動には、会うたび疲れを感じていた。今日でそれも終わるかと思うと、心底から表情もゆるむというもの。

「きみには苦労をかけた」

 エルナンドの下がった眉尻に、オリビアは微笑む。
 彼が気にかけてくれていたことは知っていた。甥の様子を把握し、窘めていたことも察している。

 レナートは、次期国王だから、中継ぎの現王ではなく自身こそが先王の正当な後継だからと、叔父すら軽く見積もって行動を起こした。

 男爵令嬢であろうと二人で認めさせる功績を見せさえすれば、王妃か側妃かという立場は置いておいて、妃となることは可能だったかもしれない。だというのにレナートは恋人を愛でるばかりで、自身の研鑽さえ怠った。

 すべては本人の責任だ。

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