婚約破棄、それぞれの行く末
「あら。過去形ということは、わたくしはお役御免ということでございますの?」
「レナートが王家を離れたからには他の血縁から迎える他ない。きみに相応しい者がいれば支えてやってくれたならとは思うが、ただでさえ奪ってしまった時間をさらに寄越せとは私には言えんよ」
エルナンドの頭の中では、未婚の王女や、自身の兄姉たちの子らの顔を浮かべて検討に入っているのだろう。
国内だけでも年頃の釣り合う者はいるとオリビアもその顔が浮かべられるが、彼らに婚約者がいることも知っている。
国王になるのなら側妃制度もあるのだから婚約者とオリビアどちらも娶れはするが、どちらを正妻である王妃とするかといった問題も浮上する。
側妃が嫁すのは王太子妃を迎えて一定期間経過後となること、側妃は二名と定められている点も揉めるに違いない。
「王女様はともかく、甥御様方は基本的には王位から離れた人生を生きられるおつもりであられたでしょうし、突然このような展開を突きつけられてもお困りになられるのではないでしょうか。もちろん中にはお喜びになる方もおられるでしょうが」
「……私こそがそのつもりもなく王位に至ったからには反発も予想はしているが、国を守るためなんとか協力を得なければ」
先行きを憂いエルナンドが嘆息する。
「かと言って野心ばかりあっても困りものですわ」
そこに声をかけたのは先王妃だ。長く妃教育を通して親しくなり可愛がっていたオリビアの手を取る。
「あなたを娘に迎える日を楽しみにしていたのだけれど、肝心の息子の育て方を間違えてしまったわね」
「統治者としての素養はあったはずですのにねぇ」
「オリビア様は懸命に取り組んでくださっていましたのに、申し訳ないこと」
「そんな、レナート様はご自分の意志を貫かれたのです、それはとても尊いことですわ」
「ふふ、そうだといいのだけれど」
我が子が王位につくことがなくなり複雑な思いを抱えているだろうに、先王妃たちは揃ってオリビアに寄り添う。
時折レナートの縋るような視線を向けられているのを感じてはいるものの、誰もがそれを受け流す。
「陛下におかれましては、今度こそ間違いのない世継ぎをお願いしたく」
先王妃は扇で口元を隠しつつ「わたくしたちが言えることではないけれど」と自嘲し、続ける。
「血縁の中から、としてしまえば世代を遡る者も出てきたりと混乱も起きましょう。ご自身の血を受け継ぐお子を成されませ」
「義姉上、」
「そうですわねぇ、早急に、お願いいたしますわぁ」
「むしろ陛下が端からそれを除外してお考えなのが解せませぬ」
エルナンドは先王妃たちに囲まれ、わずかに眉間に皺を寄せた。
「そうは言われても、今から相手を探し子を育てることを考えるとかなりの長期戦になります」
「あら。子育てとはもともと長期戦ですわ」
「お相手だって……ねぇ?」
「ええ、探さずとも、ね」
うふふ、と扇の下から漏れる笑みにエルナンドは首を捻り、オリビアはため息をひとつ。