うろ覚えの転生令嬢は勘違いで上司の恋を応援する
ティータイム大作戦
翌日、ハワード候爵の執務室を掃除しに行くと客用のテーブルにティーカップが残っていた。ハワード候爵は貴族だけど、どうやら自分でお茶を淹れることができるみたいだ。
昨日の候爵聖剣伝説を聞いたこともあって意外なギャップであるが、図書塔に使用人を入れることはできないから仕方なく覚えたのかもしれない。
「昨日はお客様が来られていたんですね?」
「ああ、片付けを頼む」
「承知しました。どなたがいらっしゃったのですか?」
「……王宮関係だ。そういえば、塩を撒き忘れていたな」
そう言って候爵は立ち上がりどこからともなく塩が入った瓶を取り出すと1階部分に行く。
もしかしてそれの為だけの塩なの?この世界では貴重な物なのよ?
さすが日本の会社が作った乙女ゲーム。その文化がこの中世ヨーロッパな世界にも浸透しているのね。まさか候爵のあのご尊顔からそんな台詞を聞ける日が来るとは思っていなかった。
そもそも図書塔に入れるってことは王宮でもかなりの御要人が来たってことだよね?
ここって実は王族の近衛騎士の次くらいに実力がある近衛騎士が警備するような場所で担当司書官以外は国王陛下と神官長と魔術師団長の許しが無いと入れないんですよ?
中の人たちはこんな感じですが。
前に神官長が来られた時とは様子が違うあたり、苦手な方が来たのかもしれない。鬼と恐れられるハワード候爵にも苦手な人っているんだな……。
「そういえば、第二騎士団の騎士から君宛てのお礼を預かっているぞ」
「え?!引っ越しのお礼ですのにお礼をいただくとは……。パスカル様からも昨日お礼をしていただきましたのに」
1階から戻ってきたハワード候爵は執務室の隣にある寝室に入り、第二騎士団の皆様から頂いたお礼の品々を渡してくれた。
「君の差し入れとやらをパスカルも絶賛していたぞ。貴族令嬢なのに料理をするとは意外だな」
「え、えーと……領地で使用人が作っているのを見て興味が湧いたから教えてもらったんですよ。思いのほか面白くて息抜きで作ることもあるんです」
前世で趣味だったとは言えない……。
候爵が何か言いかけたが、目が合うと言葉を飲み込んでしまった。私も話しかけるタイミングがつかめず、見つめ合うしかない。ちょっと気まずくなったので私は一言お断りの言葉をかけて3階の部屋に行ってティーカップを洗った。
王立図書館にはこういうお茶出し係をしてくれる使用人的な方もいるのだが、ここには居ないため私の仕事となるのだ。
ティーカップを洗い終わると紅茶を淹れて候爵の机の上に置く。彼はお礼を言って受け取ってくれた。
「そういえば、ここではアフタヌーンティーはしていないのですね?」
「ああ、見ての通りこの人数でまわしているからな」
王立図書館では小休憩と職員同士の交流も兼ねてアフタヌーンティーをしていた。王宮の調理人たちが用意してくれていたお菓子と紅茶をいただくのだ。
「よろしければ、私がお菓子を持って来てアフタヌーンティーをしてもいいですか?その方がハワード候爵とノアも少し気分転換できるかと思うのですが……」
ハワード候爵もノアもずっと活字を追う作業をしている。どちらも朝から晩まで続けばしんどいに違いない。それに、アフタヌーンティーと称して二人が顔を合わせられる機会が増えるのは良いことだろう。
私が寮に帰ってからは知らないけれど、2人が一緒に居ることはあまりないのだ。
……まあ、私が帰った後は知らないんですけど!
「良いのか?……しかし、そうすればフェレメレンの仕事が増えるぞ。寮に帰ってからも仕事をすることになるだろう」
「お菓子作りは趣味なので大丈夫です!」
候爵は顎に手を当ててちょっと悩んでいたが、意外にもOKしてくれた。「そんな時間は無い!」って一蹴される予感もしていたのでちょっと驚いた。
それでは、上司様に塩を送り返すとしますか!
お菓子作りするきっかけができて、私は少し浮足立って執務室を後にした。
昨日の候爵聖剣伝説を聞いたこともあって意外なギャップであるが、図書塔に使用人を入れることはできないから仕方なく覚えたのかもしれない。
「昨日はお客様が来られていたんですね?」
「ああ、片付けを頼む」
「承知しました。どなたがいらっしゃったのですか?」
「……王宮関係だ。そういえば、塩を撒き忘れていたな」
そう言って候爵は立ち上がりどこからともなく塩が入った瓶を取り出すと1階部分に行く。
もしかしてそれの為だけの塩なの?この世界では貴重な物なのよ?
さすが日本の会社が作った乙女ゲーム。その文化がこの中世ヨーロッパな世界にも浸透しているのね。まさか候爵のあのご尊顔からそんな台詞を聞ける日が来るとは思っていなかった。
そもそも図書塔に入れるってことは王宮でもかなりの御要人が来たってことだよね?
ここって実は王族の近衛騎士の次くらいに実力がある近衛騎士が警備するような場所で担当司書官以外は国王陛下と神官長と魔術師団長の許しが無いと入れないんですよ?
中の人たちはこんな感じですが。
前に神官長が来られた時とは様子が違うあたり、苦手な方が来たのかもしれない。鬼と恐れられるハワード候爵にも苦手な人っているんだな……。
「そういえば、第二騎士団の騎士から君宛てのお礼を預かっているぞ」
「え?!引っ越しのお礼ですのにお礼をいただくとは……。パスカル様からも昨日お礼をしていただきましたのに」
1階から戻ってきたハワード候爵は執務室の隣にある寝室に入り、第二騎士団の皆様から頂いたお礼の品々を渡してくれた。
「君の差し入れとやらをパスカルも絶賛していたぞ。貴族令嬢なのに料理をするとは意外だな」
「え、えーと……領地で使用人が作っているのを見て興味が湧いたから教えてもらったんですよ。思いのほか面白くて息抜きで作ることもあるんです」
前世で趣味だったとは言えない……。
候爵が何か言いかけたが、目が合うと言葉を飲み込んでしまった。私も話しかけるタイミングがつかめず、見つめ合うしかない。ちょっと気まずくなったので私は一言お断りの言葉をかけて3階の部屋に行ってティーカップを洗った。
王立図書館にはこういうお茶出し係をしてくれる使用人的な方もいるのだが、ここには居ないため私の仕事となるのだ。
ティーカップを洗い終わると紅茶を淹れて候爵の机の上に置く。彼はお礼を言って受け取ってくれた。
「そういえば、ここではアフタヌーンティーはしていないのですね?」
「ああ、見ての通りこの人数でまわしているからな」
王立図書館では小休憩と職員同士の交流も兼ねてアフタヌーンティーをしていた。王宮の調理人たちが用意してくれていたお菓子と紅茶をいただくのだ。
「よろしければ、私がお菓子を持って来てアフタヌーンティーをしてもいいですか?その方がハワード候爵とノアも少し気分転換できるかと思うのですが……」
ハワード候爵もノアもずっと活字を追う作業をしている。どちらも朝から晩まで続けばしんどいに違いない。それに、アフタヌーンティーと称して二人が顔を合わせられる機会が増えるのは良いことだろう。
私が寮に帰ってからは知らないけれど、2人が一緒に居ることはあまりないのだ。
……まあ、私が帰った後は知らないんですけど!
「良いのか?……しかし、そうすればフェレメレンの仕事が増えるぞ。寮に帰ってからも仕事をすることになるだろう」
「お菓子作りは趣味なので大丈夫です!」
候爵は顎に手を当ててちょっと悩んでいたが、意外にもOKしてくれた。「そんな時間は無い!」って一蹴される予感もしていたのでちょっと驚いた。
それでは、上司様に塩を送り返すとしますか!
お菓子作りするきっかけができて、私は少し浮足立って執務室を後にした。