うろ覚えの転生令嬢は勘違いで上司の恋を応援する
お兄様の笑顔が見える
恐怖の手紙は、ついに来た。
何も知らずに侍女寮に帰ると、寮母さんから見慣れた空色の封筒を受け取ったのだ。それにはフェレメレン家の家紋の封蝋が押されており、差出人を見なくても誰から来たのかわかった。
絶対、お兄様からだ。
彼はいつも、自分の髪と同じ色の封筒に手紙を入れて送ってくれる。その封筒を見て、いつでも自分のことを思い出して欲しいとのこと……。
ちなみに、ゲームでも彼との親密度が上がると水色の封筒がヒロインに届くそうだ。その封筒を見てうっとりとしていた佳織の気が知れない。
私は部屋の机の上に手紙を置き、まず深呼吸をしてから頬を叩いて自分に気合を入れる。
大丈夫!まだ左遷の事バレていないと思うたぶん!
きっと、建国祭の準備で来月首都に行くってことが書かれているはずよ。去年もこの時期にそうお手紙が来たもの!
私は指先に全神経を込めて手紙を開けた。
手紙を開けると、ふわりと花吹雪が部屋中に舞う。
お兄様の魔法だ。お兄様はいつも、手紙に魔法で仕掛けをしてくれる。小鳥が飛ぶ時もあれば、星が零れ落ちることもある。
私のために考えてくれている、その1つ1つが嬉しいのだが、今回ばかりはそれも楽しんでいられなかった。
便箋に目を通すと、お兄様の美しい文字が並んでいる。
『愛するシエナへ
元気にしているかい?
こちらはお父様がぎっくり腰になってしまいバタバタしているよ。残念だけど、今年の準備は行けそうにないみたい。だから、来月は僕と2人で首都をお出かけしようね。』
ほっとため息が漏れる。やはり、来月の準備のことについてだ。お父様のぎっくり腰は心配だから、お父様にもお手紙を書いておこう。
手紙の続きに視線を走らせる。
『最近はどうしているのかな?
なかなかシエナからの手紙が来なくて、とても寂しい日々を過ごしているよ。
そう言えば、首都に居る友人から妙な話を聞いたんだ。近頃王立図書館でシエナの姿を見ていないと言っていたんだよ。今まではいつ行っても君の姿が見えていたと聞いていたんだけどね。
部署が変わった?』
ひやりと、背中を冷たい汗が流れる。
一体、誰がその知り合いなのだろうか?
パスカル様なら、名前を伏せることなく書くだろう。何気なく接していた来館者の中の誰が、私の知らないお兄様の友人なのだろうか?
続きを見ちゃいけない。本能が、警告してくる。手紙を持つ手は汗ばみ、指が震え始めた。私は1度手紙を机の上に置いて深呼吸する。
『そのことも、首都でお出かけするときにお話しようね。もちろん、いつでも帰っておいで。』
アッカーン!これは何か知っている。
私の脳内変換がお兄様の本音に翻訳しちゃってるもん。
『僕はずっと、シエナが領地に帰ってくるのを待っているよ。
僕の愛おしいシエナが辛い目に遭っていないか心配だ。
リオネルより』
私はベッドに倒れ込み、目を瞑る。どれだけぎゅっと瞑っても瞼の裏にはお兄様の笑顔が映る。
あの日、薬が入った小瓶を机の引き出しから取り出した時の、光を失った瞳で私を見るお兄様の微笑みが。
何も知らずに侍女寮に帰ると、寮母さんから見慣れた空色の封筒を受け取ったのだ。それにはフェレメレン家の家紋の封蝋が押されており、差出人を見なくても誰から来たのかわかった。
絶対、お兄様からだ。
彼はいつも、自分の髪と同じ色の封筒に手紙を入れて送ってくれる。その封筒を見て、いつでも自分のことを思い出して欲しいとのこと……。
ちなみに、ゲームでも彼との親密度が上がると水色の封筒がヒロインに届くそうだ。その封筒を見てうっとりとしていた佳織の気が知れない。
私は部屋の机の上に手紙を置き、まず深呼吸をしてから頬を叩いて自分に気合を入れる。
大丈夫!まだ左遷の事バレていないと思うたぶん!
きっと、建国祭の準備で来月首都に行くってことが書かれているはずよ。去年もこの時期にそうお手紙が来たもの!
私は指先に全神経を込めて手紙を開けた。
手紙を開けると、ふわりと花吹雪が部屋中に舞う。
お兄様の魔法だ。お兄様はいつも、手紙に魔法で仕掛けをしてくれる。小鳥が飛ぶ時もあれば、星が零れ落ちることもある。
私のために考えてくれている、その1つ1つが嬉しいのだが、今回ばかりはそれも楽しんでいられなかった。
便箋に目を通すと、お兄様の美しい文字が並んでいる。
『愛するシエナへ
元気にしているかい?
こちらはお父様がぎっくり腰になってしまいバタバタしているよ。残念だけど、今年の準備は行けそうにないみたい。だから、来月は僕と2人で首都をお出かけしようね。』
ほっとため息が漏れる。やはり、来月の準備のことについてだ。お父様のぎっくり腰は心配だから、お父様にもお手紙を書いておこう。
手紙の続きに視線を走らせる。
『最近はどうしているのかな?
なかなかシエナからの手紙が来なくて、とても寂しい日々を過ごしているよ。
そう言えば、首都に居る友人から妙な話を聞いたんだ。近頃王立図書館でシエナの姿を見ていないと言っていたんだよ。今まではいつ行っても君の姿が見えていたと聞いていたんだけどね。
部署が変わった?』
ひやりと、背中を冷たい汗が流れる。
一体、誰がその知り合いなのだろうか?
パスカル様なら、名前を伏せることなく書くだろう。何気なく接していた来館者の中の誰が、私の知らないお兄様の友人なのだろうか?
続きを見ちゃいけない。本能が、警告してくる。手紙を持つ手は汗ばみ、指が震え始めた。私は1度手紙を机の上に置いて深呼吸する。
『そのことも、首都でお出かけするときにお話しようね。もちろん、いつでも帰っておいで。』
アッカーン!これは何か知っている。
私の脳内変換がお兄様の本音に翻訳しちゃってるもん。
『僕はずっと、シエナが領地に帰ってくるのを待っているよ。
僕の愛おしいシエナが辛い目に遭っていないか心配だ。
リオネルより』
私はベッドに倒れ込み、目を瞑る。どれだけぎゅっと瞑っても瞼の裏にはお兄様の笑顔が映る。
あの日、薬が入った小瓶を机の引き出しから取り出した時の、光を失った瞳で私を見るお兄様の微笑みが。