うろ覚えの転生令嬢は勘違いで上司の恋を応援する
仮で借りになって
翌朝、私はいつもより早めに図書塔に行った。
私なりの作戦を実行するためだ。
「あの……お二人の内どなたか私の恋人のふりをしていただけませんか?」
バルトさんがビックリして咳き込んでしまったので、私は事の詳細を話した。
「う~ん、力になってやりたいが俺もドゥブレーも結婚しているからなぁ。バイエとかどうだ?真面目だから」
「あ、あのぉ……たぶんそうするとバイエ君また心配性を拗らせちゃうかもしれないですよぉ」
いつもはおっとりとしているドゥブレーさんが慌ててそう言った。
確かに、バイエさんは時々お腹をおさえながら何かに怯えるように塔を見ることがある。繊細なバイエさんがお兄様の餌食になっている絵面が浮かんできてしまう……。
「では……ペリシエ様にお願いしてみます」
「ダメですよフェレメレン嬢~!いくら何でもすがってはいけないくらい脆い藁ですよぉ」
「ああ、ペリシエを連れて行けばお兄さんは絶対許してくれないだろう。そうだ、王子殿下たちの近衛騎士の中に独身の奴がいたと思うし聞いてみようか?」
ペリシエさんの人望……。しかし否定できない……。
ここは一つ、お願いしよう。
塔の扉がバンっと勢いよく開いた。是非!の「ぜ」を言いかけたタイミングだ。急にハワード候爵が目の前に現れ、一同が固まる。
「その話、中で聞こう」
「え?!中まで聞こえていたのですか?!」
候爵の話によると、たまたま1階部分にいて聞こえたようだ。候爵は私の腕を掴むとさっと中に引き寄せて扉を閉めた。
私はわけがわからないまま候爵の執務室のソファに真向いで座らされた。
「以前パスカルから聞いたのだが、ここに異動したことを兄に知られれば領地に連れて帰られるかもしれないのだろう?」
「え、ええ……。王立図書館の司書官でなければ領地で兄の補佐をすることになっておりまして……」
「人手が減っては困る。私も協力しよう」
そういうことか。
立ち話してたから朝イチで喝を入れられるのではないかと内心ビクビクしていたので胸をなでおろした。
パスカル様が話してくれたのね……って、何話してくれとんじゃーい!ツーカーなの?!
ということは、お兄様の事もけっこう聞いているのかな……?
「どうしても図書塔に必要な人材だから私が呼んだ、という事にしてでもダメなのか?」
「……司書になる条件が、外ならぬ王立図書館の司書官であることがマストなんです」
「ふむ、それを条件に出されたから別の説得手段としてあのようなお願いをしたのか?」
「ええ……。さすがに恋人が首都に居るなら引き剥がすことはしないかと。それも、王宮騎士団のような方でしたら堅い仕事ですし反対されないかと思うのです」
ハワード候爵は顎に手を当てて私をじっと見る。
「では私が相手になろう」
「え?」
「パスカルから聞いたが、フェレメレンの兄上とやらはやり手の人物だそうだな。あまり関わりの無い奴とその場しのぎの演技をしたって見破られそうだ。それに、俺は一応仕事も身分もそれなりだ」
「し、しかし……!」
ノアという相手が居るのにいいの?!ノアが拗ねちゃうかもしれないよ?!
それに、身分差とかすごいし同じ職場とはいえ出会って間もないから急すぎて不審がられそうじゃない?
私の口から咄嗟に出た言葉に、ハワード侯爵の瞳が冷たく光る。
「なんだ?仮とはいえ私が恋人では不服か?」
「滅相もございません……。しかし、図書塔の司書が2人とも居なくなるのはどうなんですか?」
「構わん、神官長に頼んで当日少し代わってもらおう」
え?よほど重要な会議とかじゃないと出ないって聞いてたのにこんなことで2人とも塔から出ていいの?!
「パスカルにも事情を話してついて来てもらおう。共通の知り合いが居れば警戒心も薄れるだろうし」
え?なんで?
なんでそこまでしてくださるの?
……もしかして私、意外と無害な小娘で認定してもらえたのだろうか?だから失うのが惜しくてここまでやってくれるの?
候爵の心の内が分からない。
そのためか、何やら不敵に微笑むハワード候爵が悪だくみをしている悪魔に見えたのだが、さすがに怒られるので口には出さなかった。
私なりの作戦を実行するためだ。
「あの……お二人の内どなたか私の恋人のふりをしていただけませんか?」
バルトさんがビックリして咳き込んでしまったので、私は事の詳細を話した。
「う~ん、力になってやりたいが俺もドゥブレーも結婚しているからなぁ。バイエとかどうだ?真面目だから」
「あ、あのぉ……たぶんそうするとバイエ君また心配性を拗らせちゃうかもしれないですよぉ」
いつもはおっとりとしているドゥブレーさんが慌ててそう言った。
確かに、バイエさんは時々お腹をおさえながら何かに怯えるように塔を見ることがある。繊細なバイエさんがお兄様の餌食になっている絵面が浮かんできてしまう……。
「では……ペリシエ様にお願いしてみます」
「ダメですよフェレメレン嬢~!いくら何でもすがってはいけないくらい脆い藁ですよぉ」
「ああ、ペリシエを連れて行けばお兄さんは絶対許してくれないだろう。そうだ、王子殿下たちの近衛騎士の中に独身の奴がいたと思うし聞いてみようか?」
ペリシエさんの人望……。しかし否定できない……。
ここは一つ、お願いしよう。
塔の扉がバンっと勢いよく開いた。是非!の「ぜ」を言いかけたタイミングだ。急にハワード候爵が目の前に現れ、一同が固まる。
「その話、中で聞こう」
「え?!中まで聞こえていたのですか?!」
候爵の話によると、たまたま1階部分にいて聞こえたようだ。候爵は私の腕を掴むとさっと中に引き寄せて扉を閉めた。
私はわけがわからないまま候爵の執務室のソファに真向いで座らされた。
「以前パスカルから聞いたのだが、ここに異動したことを兄に知られれば領地に連れて帰られるかもしれないのだろう?」
「え、ええ……。王立図書館の司書官でなければ領地で兄の補佐をすることになっておりまして……」
「人手が減っては困る。私も協力しよう」
そういうことか。
立ち話してたから朝イチで喝を入れられるのではないかと内心ビクビクしていたので胸をなでおろした。
パスカル様が話してくれたのね……って、何話してくれとんじゃーい!ツーカーなの?!
ということは、お兄様の事もけっこう聞いているのかな……?
「どうしても図書塔に必要な人材だから私が呼んだ、という事にしてでもダメなのか?」
「……司書になる条件が、外ならぬ王立図書館の司書官であることがマストなんです」
「ふむ、それを条件に出されたから別の説得手段としてあのようなお願いをしたのか?」
「ええ……。さすがに恋人が首都に居るなら引き剥がすことはしないかと。それも、王宮騎士団のような方でしたら堅い仕事ですし反対されないかと思うのです」
ハワード候爵は顎に手を当てて私をじっと見る。
「では私が相手になろう」
「え?」
「パスカルから聞いたが、フェレメレンの兄上とやらはやり手の人物だそうだな。あまり関わりの無い奴とその場しのぎの演技をしたって見破られそうだ。それに、俺は一応仕事も身分もそれなりだ」
「し、しかし……!」
ノアという相手が居るのにいいの?!ノアが拗ねちゃうかもしれないよ?!
それに、身分差とかすごいし同じ職場とはいえ出会って間もないから急すぎて不審がられそうじゃない?
私の口から咄嗟に出た言葉に、ハワード侯爵の瞳が冷たく光る。
「なんだ?仮とはいえ私が恋人では不服か?」
「滅相もございません……。しかし、図書塔の司書が2人とも居なくなるのはどうなんですか?」
「構わん、神官長に頼んで当日少し代わってもらおう」
え?よほど重要な会議とかじゃないと出ないって聞いてたのにこんなことで2人とも塔から出ていいの?!
「パスカルにも事情を話してついて来てもらおう。共通の知り合いが居れば警戒心も薄れるだろうし」
え?なんで?
なんでそこまでしてくださるの?
……もしかして私、意外と無害な小娘で認定してもらえたのだろうか?だから失うのが惜しくてここまでやってくれるの?
候爵の心の内が分からない。
そのためか、何やら不敵に微笑むハワード候爵が悪だくみをしている悪魔に見えたのだが、さすがに怒られるので口には出さなかった。