うろ覚えの転生令嬢は勘違いで上司の恋を応援する
上司の迎撃
「初めまして、フェレメレン子爵。私は図書塔の司書長ディラン・ハワードと申します。パスカルの幼馴染で、あなたのお話はよく伺っております。お会いできて嬉しいです」
「お初目にかかります、ハワード候爵。私はリオネル・フェレメレン、シエナの兄です。パスカルとは学園からの付き合いで、私もあなたのお話を伺っております。先日はお手紙ありがとうございました。まさか図書塔の司書長様にご足労いただけますとは恐れ多いです」
「いえ、お世話になっているフェレメレン嬢のご家族にはぜひご挨拶したいと思いまして……」
ハワード候爵の貴重な笑顔を思わず凝視してしまう。塔の外ではこういう社交辞令の顔とかしているんだなぁ。塔の中ではデフォルトで眉間に皺寄せてたり、私やノアを怒っている姿ばかり見ていたのでなんだか新鮮だ。
というか、お兄様に手紙を送っていたの?!なんて書いていたのだろうか……?
……後でお兄様に訊いてみよう。教えてくれるかな?
ウェイターがメニューを持ってくると、お兄様はそれを広げて私に見せて何を頼むか聞いてくる。いくつか欲しいものがあるなら半分こしようと言ってくれた。
「パスカルから伺っていましたが、大変仲がよろしいのですね」
「ええ、この子が生まれた時から何をするときも一緒に過ごしてきたので。ですからこの子が領地に居ないと心に穴が空いたようで……すぐにでも連れて帰りたいのですがね」
お兄様の瞳が、すっと細くなる。
えっ?もう開戦ですか?
どこからともなくゴングの音が聞こえてきた。
しかしパスカル様はそんな緊張感《プレッシャー》は全く感じていないようでお兄様たちを他所にウェイターにケーキを注文している。さすがは歴戦を潜り抜けた騎士団長。
ハワード候爵はチラとお兄様が持っている鳥籠を見た。
「大切な人を鳥籠の中に入れたい気持ちはわかります。決して失うことのないよう近くに置いて鎖で繋いでおかねば気が気ではありません。それも、鳥籠ではなく檻の中に入れて」
……ん?
私はハワード候爵の顔を見た。
……候爵、もしかしてヤンデレの素質があるの?
「ほう、さすがは図書塔の司書長ですね。檻に理解がありそうだ」
檻の理解って何なの?止めろ。【ヤンデレ担当】の血が騒ぎそうだから。昔私に降臨した武神的な奴の鎮魂の一撃で眠らせてるのに。私もうオーバードライブゲージ溜まってなくて召喚できないから。
お兄様とハワード候爵が爽やかに微笑みあい頷いているが、どこそこの施設の檻は設計者が良いとか、歴史があるとか、話題がそっちにズレ始めている。
しかもなんだか盛り上がって来てるぞ?
そんな中、パスカル様がずっと隣でモグモグしてる。
怖い会話が繰り広げられているこの戦場《テーブル》で逞しい体の美丈夫がちまっとした可愛いケーキを持っているのがなんだかゆるキャラに見えてきてしまう。
心の拠り所をありがとう、パスカル様。
でもあなた檻の話ちっとも聞いてないよね?いかにも聞いてますって表情貼り付けているけど頷くテンポちょっとズレてるよね?
「しかし、いくら図書塔が完璧であれどこの子の普段の住居は離れていますよね?塔に住んでいるあなたが守れるというのですか?」
「ご心配には及びません。図書塔に近い王宮内の侍女寮に移動してもらいました。そうすれば仕事を多く回せるので夜遅くに街に出ることも無く私の目の届く範囲で管理できます。……図書塔の司書長、監禁のプロとして心得ておりますので」
オィィィィィ?!しれっと本音吐きましたよこの人。どうりで毎日サクサク仕事挟んでくるわけだ。
「なるほど、それは好ましい」
お兄様ぁぁぁぁ!監禁に反応してその前のブラック企業の本音見落としてる!!!このヤンデレシスコン野郎。
「ただ、候爵とシエナは出会って間もないと言うのに恋仲になるとは早急過ぎて心配なのです。家柄の差もありますし」
「確かにシエナ嬢とは出会って日が浅いですが、それでも彼女をあの塔から出したくない、誰にも触れさせたくないという思いでいっぱいです。家族にも彼女のことは話しており、みな好意的に受け止めています。ですので、どうかこの子を領地に連れて帰らないでください」
……え?嘘?本当?嘘ですよね?
王家との繋がりが強いあのハワード家を持ち出してそんな嘘ついて大丈夫なの?
「これから忙しくなるな、シエナ」
パスカル様が優雅に紅茶を飲みながら小声で言ってくる。しみじみとした顔してますけどこれ演技って知ってますよね?なんだか不安になってきた。
この状況、仮にお兄様が首都に居続けることを許可してくださるとしてどうやっていくんだろ?あれ?どうするんだ??
「しかし……、シエナは元はと言えば司書でいることが望みなのです。図書塔では名目上は司書ですが、仕事内容はかけ離れています。そんな状況を続けさせるのは酷だと考えております」
「……存じております。シエナ嬢は今は上層部の考えがあってこちらに居ますが、私のすべてをかけて、いずれ王立図書館に戻れるよう尽力致します。そして、その時は新しい檻をまた用意します」
ちょっとグッときていたのに檻を挟むな。感動を返せ。
しんと静かになり、お兄様とハワード候爵がお互いの出方を窺っている。
「ふむ……完全には認められませんが、しばらく様子見と行きましょう。候爵は今までいかなる令嬢にも心を寄せなかったと聞いております。そんなあなたが夢中になるのでしたら、きっとこの子を大切にしてくれると、信じています」
お、お兄様が認めた?!今までこんな回答を聞いたことが無い。
私に婚約を申し込む貴族家はお断りを入れてから没落に追い込んできたお兄様が!何が彼の心を動かしたの?!
候爵が檻の話ができる同士だったから?!
上司の意外な一面を知ってしまい、私はノアに同情した。
何はともあれ、ハワード候爵のおかげで私は司書復帰の道にまた戻ってこられたのであった。このご恩は必ず……ノアには犠牲になってもらおう……。
「ありがとうございます。建国祭後、改めて婚約のお話に伺います。……では、寮まで送りましょう、シエナ」
「へ?」
ハワード候爵が私に手を差し伸べる。その手の先にある候爵は優しい微笑みを浮かべてこちらを見ている。
そうか、恋人という設定だったわ。
甘い瞳で見つめてくるって、こういう表情なんだろなって思う。改めて、候爵の演技力ってすごい。
珍しい顔だからちょっと心のスクショにとどめておきたいところだが、私は頷いて彼の手を取ろうとした。その時、お兄様が目にもとまらぬ速さで間に入り私を抱き上げた。
「生憎ですが、今日は私のために時間をくれると約束しています」
お兄様はさっと会計を済ませるとそのまま店を出た。
そしてその後、お兄様にめちゃくちゃ連れまわされた。
「お初目にかかります、ハワード候爵。私はリオネル・フェレメレン、シエナの兄です。パスカルとは学園からの付き合いで、私もあなたのお話を伺っております。先日はお手紙ありがとうございました。まさか図書塔の司書長様にご足労いただけますとは恐れ多いです」
「いえ、お世話になっているフェレメレン嬢のご家族にはぜひご挨拶したいと思いまして……」
ハワード候爵の貴重な笑顔を思わず凝視してしまう。塔の外ではこういう社交辞令の顔とかしているんだなぁ。塔の中ではデフォルトで眉間に皺寄せてたり、私やノアを怒っている姿ばかり見ていたのでなんだか新鮮だ。
というか、お兄様に手紙を送っていたの?!なんて書いていたのだろうか……?
……後でお兄様に訊いてみよう。教えてくれるかな?
ウェイターがメニューを持ってくると、お兄様はそれを広げて私に見せて何を頼むか聞いてくる。いくつか欲しいものがあるなら半分こしようと言ってくれた。
「パスカルから伺っていましたが、大変仲がよろしいのですね」
「ええ、この子が生まれた時から何をするときも一緒に過ごしてきたので。ですからこの子が領地に居ないと心に穴が空いたようで……すぐにでも連れて帰りたいのですがね」
お兄様の瞳が、すっと細くなる。
えっ?もう開戦ですか?
どこからともなくゴングの音が聞こえてきた。
しかしパスカル様はそんな緊張感《プレッシャー》は全く感じていないようでお兄様たちを他所にウェイターにケーキを注文している。さすがは歴戦を潜り抜けた騎士団長。
ハワード候爵はチラとお兄様が持っている鳥籠を見た。
「大切な人を鳥籠の中に入れたい気持ちはわかります。決して失うことのないよう近くに置いて鎖で繋いでおかねば気が気ではありません。それも、鳥籠ではなく檻の中に入れて」
……ん?
私はハワード候爵の顔を見た。
……候爵、もしかしてヤンデレの素質があるの?
「ほう、さすがは図書塔の司書長ですね。檻に理解がありそうだ」
檻の理解って何なの?止めろ。【ヤンデレ担当】の血が騒ぎそうだから。昔私に降臨した武神的な奴の鎮魂の一撃で眠らせてるのに。私もうオーバードライブゲージ溜まってなくて召喚できないから。
お兄様とハワード候爵が爽やかに微笑みあい頷いているが、どこそこの施設の檻は設計者が良いとか、歴史があるとか、話題がそっちにズレ始めている。
しかもなんだか盛り上がって来てるぞ?
そんな中、パスカル様がずっと隣でモグモグしてる。
怖い会話が繰り広げられているこの戦場《テーブル》で逞しい体の美丈夫がちまっとした可愛いケーキを持っているのがなんだかゆるキャラに見えてきてしまう。
心の拠り所をありがとう、パスカル様。
でもあなた檻の話ちっとも聞いてないよね?いかにも聞いてますって表情貼り付けているけど頷くテンポちょっとズレてるよね?
「しかし、いくら図書塔が完璧であれどこの子の普段の住居は離れていますよね?塔に住んでいるあなたが守れるというのですか?」
「ご心配には及びません。図書塔に近い王宮内の侍女寮に移動してもらいました。そうすれば仕事を多く回せるので夜遅くに街に出ることも無く私の目の届く範囲で管理できます。……図書塔の司書長、監禁のプロとして心得ておりますので」
オィィィィィ?!しれっと本音吐きましたよこの人。どうりで毎日サクサク仕事挟んでくるわけだ。
「なるほど、それは好ましい」
お兄様ぁぁぁぁ!監禁に反応してその前のブラック企業の本音見落としてる!!!このヤンデレシスコン野郎。
「ただ、候爵とシエナは出会って間もないと言うのに恋仲になるとは早急過ぎて心配なのです。家柄の差もありますし」
「確かにシエナ嬢とは出会って日が浅いですが、それでも彼女をあの塔から出したくない、誰にも触れさせたくないという思いでいっぱいです。家族にも彼女のことは話しており、みな好意的に受け止めています。ですので、どうかこの子を領地に連れて帰らないでください」
……え?嘘?本当?嘘ですよね?
王家との繋がりが強いあのハワード家を持ち出してそんな嘘ついて大丈夫なの?
「これから忙しくなるな、シエナ」
パスカル様が優雅に紅茶を飲みながら小声で言ってくる。しみじみとした顔してますけどこれ演技って知ってますよね?なんだか不安になってきた。
この状況、仮にお兄様が首都に居続けることを許可してくださるとしてどうやっていくんだろ?あれ?どうするんだ??
「しかし……、シエナは元はと言えば司書でいることが望みなのです。図書塔では名目上は司書ですが、仕事内容はかけ離れています。そんな状況を続けさせるのは酷だと考えております」
「……存じております。シエナ嬢は今は上層部の考えがあってこちらに居ますが、私のすべてをかけて、いずれ王立図書館に戻れるよう尽力致します。そして、その時は新しい檻をまた用意します」
ちょっとグッときていたのに檻を挟むな。感動を返せ。
しんと静かになり、お兄様とハワード候爵がお互いの出方を窺っている。
「ふむ……完全には認められませんが、しばらく様子見と行きましょう。候爵は今までいかなる令嬢にも心を寄せなかったと聞いております。そんなあなたが夢中になるのでしたら、きっとこの子を大切にしてくれると、信じています」
お、お兄様が認めた?!今までこんな回答を聞いたことが無い。
私に婚約を申し込む貴族家はお断りを入れてから没落に追い込んできたお兄様が!何が彼の心を動かしたの?!
候爵が檻の話ができる同士だったから?!
上司の意外な一面を知ってしまい、私はノアに同情した。
何はともあれ、ハワード候爵のおかげで私は司書復帰の道にまた戻ってこられたのであった。このご恩は必ず……ノアには犠牲になってもらおう……。
「ありがとうございます。建国祭後、改めて婚約のお話に伺います。……では、寮まで送りましょう、シエナ」
「へ?」
ハワード候爵が私に手を差し伸べる。その手の先にある候爵は優しい微笑みを浮かべてこちらを見ている。
そうか、恋人という設定だったわ。
甘い瞳で見つめてくるって、こういう表情なんだろなって思う。改めて、候爵の演技力ってすごい。
珍しい顔だからちょっと心のスクショにとどめておきたいところだが、私は頷いて彼の手を取ろうとした。その時、お兄様が目にもとまらぬ速さで間に入り私を抱き上げた。
「生憎ですが、今日は私のために時間をくれると約束しています」
お兄様はさっと会計を済ませるとそのまま店を出た。
そしてその後、お兄様にめちゃくちゃ連れまわされた。