うろ覚えの転生令嬢は勘違いで上司の恋を応援する
ロイヤルたちの世間が狭すぎる件について
広大で豪華絢爛な室内。
塵一つ落ちていない高級な絨毯に一歩踏み入れただけで足が震える。
「国王陛下、シエナ・フェレメレンと申します。本日はお茶会にお招きいただき大変感謝いたします」
「ようこそ、フェレメレン嬢。塔の魔法書を扱えるとは若いながらに優秀だね。ディランもそんな君に惚れ込んだのかな?あそこはベテランの司書が就く席なのだよ」
「私にはもったいないお言葉です、陛下」
国王陛下にとって図書塔は左遷席という認識はないのだろうか?
それとも同情……?
確かに、図書塔の本たちは魔法書の中でも特殊なのだ。
通常の魔法と一緒に、戒めの魔法が付与されている。その分、王立図書館の本より扱いづらいのは事実。
それでも、司書たちからすると図書塔は飛ばされたくない左遷席なのだ。
そこに行くことを名誉と捉える者はまだお会いしたことがない。
「堅苦しいのは良い、私のことはお義父様って呼んでくれても良いのだぞ?」
「お?とうさま???」
聞き捨てならないセリフに驚愕していると、国王陛下の傍に控えている側近がジロリと怜悧な瞳で陛下を睨み窘めた。
「そう睨むな。実の子のように可愛がってきたディランの婚約者となるのだ、私のことは義父だと思ってくれればよいと思ってな」
「……陛下、さすがにそれは宰相に怒られますよ。この前、『やっとお義父様って呼んでもらえる!』と喜ばれていたじゃないですか!公爵夫人は一緒にお茶する為の茶器選びに迷っているそうですし、ファーストお義父様を陛下がもらったら夫婦そろって殴り込みに来ますよ!」
「そうですよ父上~!なんせフェレメレン嬢はハワード公爵家待望の婚約者様なのですから!」
ヤメロ王子!止めて側近さん!私の中の良心が痛みすぎてライフがやばいわ!
ハワード家の想像以上の歓迎に、お飾りの妻を承諾したことを心底申し訳なくなる。
側近は陛下の代わりに私に謝罪した。
どうやら国王はこういう突拍子もない冗談でお戯れ遊ばれるきらいがあるようで。
陛下とエドワール王子の楽しそうな顔が並びこちらを見ていると蛇に睨まれた蛙のような気持になる。
このはた迷惑な趣味、此の親にして此の子ありだわ。
「みんな頭が固いのう。どれ、そなたが知らない幼少の頃のディランについてでも話そうかね」
ハワード侯爵は宰相の息子であるため、国王陛下やエドワール王子とは幼少のころから交流があったそうだ。
近所の子どものことを話すおじさんのような顔をしている国王陛下を見ていると、ハワード候爵って本当にこんなロイヤルな方たちに近い家柄なんだなって思う。社交も多いだろうし、数多の名家と交流がありそうだな。
やがて国王陛下がハワード候爵の初恋に触れようとした時、側近の方がすかさず止めて話題を変えた。
「フェレメレン嬢、良ければこの部屋の絵画の解説をしてもよろしいですか?」
え?初恋が気になるんだけどな。
初恋は人間だったのだろうか?女性だったのだろうか?
「えー?ディランの初恋の方が面白いと思うのにぃ?」
「そーそー!父上の仰る通り傑作だと思うんだけどなぁ」
「民の前ではもっと風格のある素振りでも見せていただきたいのですが、陛下?第一王子殿下?」
私も侯爵の初恋は気になっているが、側近の方が笑顔の圧をかけてまで必死で止めようとするので私は大人しく彼の話を聞くことにした。
ちょっと残念だな。
「今回、司書であるフェレメレン嬢をお迎えするにあたり陛下がこの部屋をお選びになったのには理由があるのです。この絵の方をご存知ですか?」
側近が指した絵を見ると、雷に打たれたような衝撃が走った。
ジネットに瓜二つの女性が描かれているのだ。というか、ジネットだ。
「こ、このお方はエルランジェ嬢?!」
「いえ、このお方はセレスティーヌ王女様です。……そう言えば、エルランジェ嬢にも雰囲気が似ていらっしゃいますね。セレスティーヌ王女様は隣国に嫁がれた方で、光属性の魔法が使えることで有名ですが、司書になりたいから王族を出たいとも仰ったというお話もあるのですよ」
いやいやいやいや、雰囲気どころじゃありませんよ!むしろそのまんまと言った方が近いくらいに似ている。
遺伝子レベルで世間狭くないか???こんなにもそっくりって、ある?
その隣国、たぶんジネットの生まれ故郷だわ。
そして、この王女様のお腹から生まれた子どもの末裔である王子と侍女の間に生まれたのがジネットで、彼女の母親は生んだ後ジネットと2人でこのフェリエール王国に身を隠すのだけど、流行病にかかった彼女は幼いジネットを遺して亡くなり、ジネットは孤児になってしまうのよね。
だけど彼女は光属性の魔法を発動させ、偶然その孤児院を視察に来ていたエルランジェ公爵夫妻に養女として迎えられるという。
公爵令嬢になったジネットは王宮でのパーティーにも参加してそうだけど、王宮の人たちなんで気づかないかなぁ??
そういうところですよ、ゲーム設定。
設定という名のフィルターで誰も違和感を持たないのが恐ろしい。
こんなにも似ている人をスルーできるの?
「お、王女殿下は本が好きな方ですので、肖像画に本が描かれているのですね?」
「ああ、あれは王女が描いた絵本だよ。現物があるから見るかい?」
「そんな……!建国祭の準備中ですのにこれ以上陛下のお時間をいただきますのは恐れ多いです」
「いんや。民と話せるのは嬉しいし、そなたと話せば物怖じしないディランの弱点を突けて面白いからな。あ奴は私に対して塩対応でな、ついつい突っつきたくなるもんでね」
本音がチラリズムしちゃってますよ陛下ぁぁぁ!
そしてさすが日本のゲームだな。
塩対応なんて言い回しをこの中世ヨーロッパど真ん中な顔の王の口から言わせしめるのか。
お断りを申し上げたところで、目の前のロイヤル親子が帰してくれるはずがない。私は彼らに連れられて王宮の奥へと誘われてゆくのであった。
塵一つ落ちていない高級な絨毯に一歩踏み入れただけで足が震える。
「国王陛下、シエナ・フェレメレンと申します。本日はお茶会にお招きいただき大変感謝いたします」
「ようこそ、フェレメレン嬢。塔の魔法書を扱えるとは若いながらに優秀だね。ディランもそんな君に惚れ込んだのかな?あそこはベテランの司書が就く席なのだよ」
「私にはもったいないお言葉です、陛下」
国王陛下にとって図書塔は左遷席という認識はないのだろうか?
それとも同情……?
確かに、図書塔の本たちは魔法書の中でも特殊なのだ。
通常の魔法と一緒に、戒めの魔法が付与されている。その分、王立図書館の本より扱いづらいのは事実。
それでも、司書たちからすると図書塔は飛ばされたくない左遷席なのだ。
そこに行くことを名誉と捉える者はまだお会いしたことがない。
「堅苦しいのは良い、私のことはお義父様って呼んでくれても良いのだぞ?」
「お?とうさま???」
聞き捨てならないセリフに驚愕していると、国王陛下の傍に控えている側近がジロリと怜悧な瞳で陛下を睨み窘めた。
「そう睨むな。実の子のように可愛がってきたディランの婚約者となるのだ、私のことは義父だと思ってくれればよいと思ってな」
「……陛下、さすがにそれは宰相に怒られますよ。この前、『やっとお義父様って呼んでもらえる!』と喜ばれていたじゃないですか!公爵夫人は一緒にお茶する為の茶器選びに迷っているそうですし、ファーストお義父様を陛下がもらったら夫婦そろって殴り込みに来ますよ!」
「そうですよ父上~!なんせフェレメレン嬢はハワード公爵家待望の婚約者様なのですから!」
ヤメロ王子!止めて側近さん!私の中の良心が痛みすぎてライフがやばいわ!
ハワード家の想像以上の歓迎に、お飾りの妻を承諾したことを心底申し訳なくなる。
側近は陛下の代わりに私に謝罪した。
どうやら国王はこういう突拍子もない冗談でお戯れ遊ばれるきらいがあるようで。
陛下とエドワール王子の楽しそうな顔が並びこちらを見ていると蛇に睨まれた蛙のような気持になる。
このはた迷惑な趣味、此の親にして此の子ありだわ。
「みんな頭が固いのう。どれ、そなたが知らない幼少の頃のディランについてでも話そうかね」
ハワード侯爵は宰相の息子であるため、国王陛下やエドワール王子とは幼少のころから交流があったそうだ。
近所の子どものことを話すおじさんのような顔をしている国王陛下を見ていると、ハワード候爵って本当にこんなロイヤルな方たちに近い家柄なんだなって思う。社交も多いだろうし、数多の名家と交流がありそうだな。
やがて国王陛下がハワード候爵の初恋に触れようとした時、側近の方がすかさず止めて話題を変えた。
「フェレメレン嬢、良ければこの部屋の絵画の解説をしてもよろしいですか?」
え?初恋が気になるんだけどな。
初恋は人間だったのだろうか?女性だったのだろうか?
「えー?ディランの初恋の方が面白いと思うのにぃ?」
「そーそー!父上の仰る通り傑作だと思うんだけどなぁ」
「民の前ではもっと風格のある素振りでも見せていただきたいのですが、陛下?第一王子殿下?」
私も侯爵の初恋は気になっているが、側近の方が笑顔の圧をかけてまで必死で止めようとするので私は大人しく彼の話を聞くことにした。
ちょっと残念だな。
「今回、司書であるフェレメレン嬢をお迎えするにあたり陛下がこの部屋をお選びになったのには理由があるのです。この絵の方をご存知ですか?」
側近が指した絵を見ると、雷に打たれたような衝撃が走った。
ジネットに瓜二つの女性が描かれているのだ。というか、ジネットだ。
「こ、このお方はエルランジェ嬢?!」
「いえ、このお方はセレスティーヌ王女様です。……そう言えば、エルランジェ嬢にも雰囲気が似ていらっしゃいますね。セレスティーヌ王女様は隣国に嫁がれた方で、光属性の魔法が使えることで有名ですが、司書になりたいから王族を出たいとも仰ったというお話もあるのですよ」
いやいやいやいや、雰囲気どころじゃありませんよ!むしろそのまんまと言った方が近いくらいに似ている。
遺伝子レベルで世間狭くないか???こんなにもそっくりって、ある?
その隣国、たぶんジネットの生まれ故郷だわ。
そして、この王女様のお腹から生まれた子どもの末裔である王子と侍女の間に生まれたのがジネットで、彼女の母親は生んだ後ジネットと2人でこのフェリエール王国に身を隠すのだけど、流行病にかかった彼女は幼いジネットを遺して亡くなり、ジネットは孤児になってしまうのよね。
だけど彼女は光属性の魔法を発動させ、偶然その孤児院を視察に来ていたエルランジェ公爵夫妻に養女として迎えられるという。
公爵令嬢になったジネットは王宮でのパーティーにも参加してそうだけど、王宮の人たちなんで気づかないかなぁ??
そういうところですよ、ゲーム設定。
設定という名のフィルターで誰も違和感を持たないのが恐ろしい。
こんなにも似ている人をスルーできるの?
「お、王女殿下は本が好きな方ですので、肖像画に本が描かれているのですね?」
「ああ、あれは王女が描いた絵本だよ。現物があるから見るかい?」
「そんな……!建国祭の準備中ですのにこれ以上陛下のお時間をいただきますのは恐れ多いです」
「いんや。民と話せるのは嬉しいし、そなたと話せば物怖じしないディランの弱点を突けて面白いからな。あ奴は私に対して塩対応でな、ついつい突っつきたくなるもんでね」
本音がチラリズムしちゃってますよ陛下ぁぁぁ!
そしてさすが日本のゲームだな。
塩対応なんて言い回しをこの中世ヨーロッパど真ん中な顔の王の口から言わせしめるのか。
お断りを申し上げたところで、目の前のロイヤル親子が帰してくれるはずがない。私は彼らに連れられて王宮の奥へと誘われてゆくのであった。