うろ覚えの転生令嬢は勘違いで上司の恋を応援する
侯爵、またご乱心ですか?の巻
侯爵について階段を上がっていくと、ノアが2階と3階の狭間でちょいちょいと手招きしてくる。
彼は魔法の壁のせいで2階には来られないのだ。私が近くまで行くと、彼はくしゃりと頭を撫でてきた。
「心配させやがって」
「ありがとうございます」
どうやら、彼も先ほどの戦闘を知っているようだ。
へらりと笑って見せたが、ノアは心配そうな顔のまま私を見送った。
執務室に入ると、ハワード侯爵に促されてソファに座る。
「建国祭になればまた今日のようなことが起こるだろう」
「さっきも撃退できたので大丈夫ですよ!」
「……君は知らないからそう言える」
「何をですか?」
「……」
彼は向かいのソファに座るのかと思いきや、かがんで顔を近づけてきた。思わず飛び上がると身体の位置がずれて、背もたれにかけている侯爵の手に頭が当たる。
ぎしりと、背もたれが軋む音がする。
彼の前科を思い出してしまった私の顔はじわじわと熱を帯びてゆく。ここ最近、なんだか本当に好きな人にするようなことをしてくるから戸惑いを隠せないでいる。これ以上はもうキャパオーバーだ。
侯爵の顔を見られず目を逸らしてしまった。
「ようやく意識してくれるようになったな」
「へ?」
「こっちの話だ」
「あの、これはどういった状況なんですか?」
「君の姿を目に焼き付けている」
「こ、恋人のようなことを言いますね」
「恋人になったんだろう?」
「仮ですが」
「建国祭が終わったら婚約者になるんだろ?」
「そう……ですが……」
それも仮であるのに……。
どうしていきなりこんなからかいを始めたのだろうか?
侯爵は、私のことをどう思っているんだろう?
畳みかけるように言われてまごついていると、ますます侯爵は例の色っぽい微笑みを強めた。
またご乱心なのかな?
最近は忙しかったし、ノアと喧嘩もしてたから混乱しているのでは……?
心臓がもたないので何とかこの状況を打開しなくてはと考えを巡らせていると、彼の手が近づいてくる。
そして、気づいた。
その手には黒い手袋がはめられている。
彼は私の顎をそっと掴む。
穏やかな水色の瞳が、私の姿を映す。
「眠れ」
呪文が聞こえたとたん、強い脱力感に襲われた。
侯爵が魔法で私を眠らせた?
どうして?
崩れていく身体を侯爵が抱きとめるようにして支える。彼は私の髪留めをするりと外すと、私の顔にかかる髪を手で梳いて除いた。まるで、壊れ物に触れるかのように優しく。
手袋を外して、さらりさらりと味わうように私の髪を掬っては梳いてゆく。
「安心しろ、目が覚めた時には全て終わっている」
その台詞、なんだかフラグみたいで嫌な予感しかしないんですけど……。
全て終わっているって、何の事?建国祭?
建国祭は忙しいのに私が居なくて大丈夫なんですか?
ぼんやりとしていく意識。
抗えない眠気が私を夢の世界に引きずり込んでゆく。
言葉を発しようとするにも、上手く口が動かない。
「な……んで……?」
「君のためだ」
なおさらわからない。
侯爵が私の手を握り、私はそれを握り返そうとするが眠気が深まるばかりで力が入らない。
「どれだけ気を付けても、君は私の手からすり抜けてしまう」
どうにか瞼を開けようと踏ん張って見えた景色では、悲しそうな顔をした侯爵が私を覗き込んでいる。
候爵どうしちゃったの?
ズキリと鈍い痛みが胸に広がる。
泣かないで。さすがに裏ボス侯爵は泣きはしないだろうけど……。
私、侯爵に辛い気持ちになって欲しくない。
「私とエルランジェ嬢がどれだけ先回りしても、いつも君は……」
言いかけて、彼は口を噤んだ。
……どういうこと?
侯爵とジネットが何なの?
ああ、ジネットが建国祭中に塔に来てしまうのに、このまま眠ってしまったら何もできなくなってしまう。
必死で力を入れようとしても、瞼は閉じてしまった。
手に侯爵の掌の温もりを感じつつ、完全に意識が途切れた。
彼は魔法の壁のせいで2階には来られないのだ。私が近くまで行くと、彼はくしゃりと頭を撫でてきた。
「心配させやがって」
「ありがとうございます」
どうやら、彼も先ほどの戦闘を知っているようだ。
へらりと笑って見せたが、ノアは心配そうな顔のまま私を見送った。
執務室に入ると、ハワード侯爵に促されてソファに座る。
「建国祭になればまた今日のようなことが起こるだろう」
「さっきも撃退できたので大丈夫ですよ!」
「……君は知らないからそう言える」
「何をですか?」
「……」
彼は向かいのソファに座るのかと思いきや、かがんで顔を近づけてきた。思わず飛び上がると身体の位置がずれて、背もたれにかけている侯爵の手に頭が当たる。
ぎしりと、背もたれが軋む音がする。
彼の前科を思い出してしまった私の顔はじわじわと熱を帯びてゆく。ここ最近、なんだか本当に好きな人にするようなことをしてくるから戸惑いを隠せないでいる。これ以上はもうキャパオーバーだ。
侯爵の顔を見られず目を逸らしてしまった。
「ようやく意識してくれるようになったな」
「へ?」
「こっちの話だ」
「あの、これはどういった状況なんですか?」
「君の姿を目に焼き付けている」
「こ、恋人のようなことを言いますね」
「恋人になったんだろう?」
「仮ですが」
「建国祭が終わったら婚約者になるんだろ?」
「そう……ですが……」
それも仮であるのに……。
どうしていきなりこんなからかいを始めたのだろうか?
侯爵は、私のことをどう思っているんだろう?
畳みかけるように言われてまごついていると、ますます侯爵は例の色っぽい微笑みを強めた。
またご乱心なのかな?
最近は忙しかったし、ノアと喧嘩もしてたから混乱しているのでは……?
心臓がもたないので何とかこの状況を打開しなくてはと考えを巡らせていると、彼の手が近づいてくる。
そして、気づいた。
その手には黒い手袋がはめられている。
彼は私の顎をそっと掴む。
穏やかな水色の瞳が、私の姿を映す。
「眠れ」
呪文が聞こえたとたん、強い脱力感に襲われた。
侯爵が魔法で私を眠らせた?
どうして?
崩れていく身体を侯爵が抱きとめるようにして支える。彼は私の髪留めをするりと外すと、私の顔にかかる髪を手で梳いて除いた。まるで、壊れ物に触れるかのように優しく。
手袋を外して、さらりさらりと味わうように私の髪を掬っては梳いてゆく。
「安心しろ、目が覚めた時には全て終わっている」
その台詞、なんだかフラグみたいで嫌な予感しかしないんですけど……。
全て終わっているって、何の事?建国祭?
建国祭は忙しいのに私が居なくて大丈夫なんですか?
ぼんやりとしていく意識。
抗えない眠気が私を夢の世界に引きずり込んでゆく。
言葉を発しようとするにも、上手く口が動かない。
「な……んで……?」
「君のためだ」
なおさらわからない。
侯爵が私の手を握り、私はそれを握り返そうとするが眠気が深まるばかりで力が入らない。
「どれだけ気を付けても、君は私の手からすり抜けてしまう」
どうにか瞼を開けようと踏ん張って見えた景色では、悲しそうな顔をした侯爵が私を覗き込んでいる。
候爵どうしちゃったの?
ズキリと鈍い痛みが胸に広がる。
泣かないで。さすがに裏ボス侯爵は泣きはしないだろうけど……。
私、侯爵に辛い気持ちになって欲しくない。
「私とエルランジェ嬢がどれだけ先回りしても、いつも君は……」
言いかけて、彼は口を噤んだ。
……どういうこと?
侯爵とジネットが何なの?
ああ、ジネットが建国祭中に塔に来てしまうのに、このまま眠ってしまったら何もできなくなってしまう。
必死で力を入れようとしても、瞼は閉じてしまった。
手に侯爵の掌の温もりを感じつつ、完全に意識が途切れた。