うろ覚えの転生令嬢は勘違いで上司の恋を応援する
繰り返す物語の果て(※ジネット視点)
私には前世の記憶がある。
名前はエマ・アルヴィエで、生まれも育ちも日本の大学生だった。
この名前を教えた時、シエナたんはすごく驚いて「このゲームのキャラクターみたいな名前だね」と言っていた。
そう、シエナたんは私と同じ転生者だ。
彼女と初めて出会ったのは1回目の転生。
私が初めてジネット・エルランジェとして迎えた人生だ。
司書養成学校で初めて出会い、ゲームでは死んでいるはずのリオネルの妹だから興味をもって観察していた。
そんな中、彼女が鼻歌で、前世で聞き覚えのあるアニソンを歌っていたので転生者だと気づいたのだ。
このゲームを実際にプレイしていた私とは違い、彼女は友人の佳織さんからこのゲームについて教えてもらっていたのだと言う。
ちなみにその佳織さん、前世で私が神絵師と拝み恐れ多くも交流させていただいていた食パンの袋を留めるアレさん(@menkuiGORILLA)だった。世間って意外と狭いね。
シエナたんにはたくさん相談を聞いてもらったし、助けてもらった。
というのも、私は幼少期に、ハーフである外見や名前を男子にからかわれたせいで男性と面と向かって話せず、恋愛には奥手だった。
それは乙女ゲームの世界では致命的な欠点である。
ゲームでは上手くいくのだが、実際に男性が目の前にいると上手くいかない。
彼らがゲームのキャラクターだと分かっているのにも関わらず、だ。
それでもゲームが進んでいく中でシエナたんが支えてくれたおかげで私は男性と普通に会話をすることができるようになった。
一緒になって作戦会議をしてくれて、上手くいくと自分の事のように喜んでくれて、楽しく過ごしていた。
しかしある日、彼女は悪役令嬢であるパトリシア・ヴォルテーヌからの嫌がらせを受けた末に図書塔に左遷させられてしまう。
そしてあの日、悲劇は起きた。
噴水広場でセドリック王子と焚書魔術集団が連れてきた悪魔を封印した後、私は休む間もなくエドワールに図書塔に連れていかれた。
至急、聖女の力で治療して欲しい人が居るのだと言う。
そこで目にしたのは、図書塔の司書長であるハワード侯爵と、彼の腕の中で息絶えたシエナたん、そして瀕死の状態で苦しむノア・モルガンだった。
聖女の力でノア・モルガンは一命を取り留めた。しかし、どんなに魔法を行使しても、シエナたんは二度と息を吹き返さなかった。
魔力切れを起こし途切れていく意識の中で見たのは、シエナたんを抱きしめて涙も鼻水も垂れ流しながら彼女に謝るハワード侯爵の姿。
え?鼻水は出てなかったって?
ハワード侯爵、私の回想に口を挟まないでいただけるかしら?
記憶の解像度を350dpiにしたらきっと見えるはずよ。
ともかく、それから私は助けられなかった後悔を抱えたまま、最初のジネット・エルランジェとしての一生を終えた。
その後、なぜか私は幼い頃の自分に戻っていた。
過去に転生したのだ。
私はそれをチャンスと思い、シエナたんを生き残らせることを決意した。
しかしどれだけ頑張っても、先回りしても、建国祭の最終日になればシエナたんはこの世から消えてしまう。
彼女が本来はゲームに存在しない人物だからゲーム補正で消されてしまうのかと諦めかけることもあった。
エンディングで功績を称えられ、どれだけ深く攻略対象から愛されても、報われない思いだけが心を支配した。
ゲームのエンド後、どんなに幸せな家庭が築かれようとも、深く突き刺さった棘として残っていた。
繰り返す悪夢。
本当に乙女ゲームの世界なのか疑いたくなる。
何度もこの世界を呪った。
何度も投げ出したくなった。
それでも残酷なことに、ジネット・エルランジェとしての一生を終えれば私の意思に反してまた私は子どもの頃に戻る。全てを覚えている状態で。
悲劇が待っているは分かっていても、転生して彼女に出会うたびにこの笑顔を守りたいと思い行動してしまう。
一度、シエナたんにこの悲劇を打ち明けたことがあった。
彼女はショックを受けた顔をしたが、すぐにふわりと笑って、「シエナはバグみたいなものだから仕方がないよ。私の分までジネットが幸せになってね」と言ったのだ。
そんなこと言われたら、なおさら守りたくなった。
ついに2つ前の転生では行き詰まり、イチかバチかでハワード侯爵に事情を説明した。
すると彼はノア・モルガンに相談して転生の魔法を編み出してもらい、彼もこのループに加わることに成功した。
上手くいくことばかりではなかった。どちらかといえば、上手くいかない事ばかりだった。
死亡回避の作戦とはいえ、悪役令嬢みたいな態度でシエナたんに接するのはかなりのストレスだったし、これが正解なのかわからなくて不安だった。
正直私だってシエナたんの手作りお菓子食べたかったし、シエナたんがお兄様と微笑ましい再会をしている様子を毛穴が見えるくらい近くで拝みたかったものである。
貴重な瞬間を逃して悔しいわ。
それでも今、念願かなって目の前にシエナたんがいる。
私の前で、確かに生きている。
この気持ちは、言の葉に変えがたいものだ。
パッと出のくせにシエナたんの腕の中に居るハワード侯爵は許しがたいが、彼女のために裏ボス級に強くなったその努力を知らないわけではない。
乙女ゲームに需要があるのか疑いたくなるほどの能力値をつけて現れたこいつを見て驚かずにはいられなかった。
今日だけは許してやろう。
今日だけはな。
名前はエマ・アルヴィエで、生まれも育ちも日本の大学生だった。
この名前を教えた時、シエナたんはすごく驚いて「このゲームのキャラクターみたいな名前だね」と言っていた。
そう、シエナたんは私と同じ転生者だ。
彼女と初めて出会ったのは1回目の転生。
私が初めてジネット・エルランジェとして迎えた人生だ。
司書養成学校で初めて出会い、ゲームでは死んでいるはずのリオネルの妹だから興味をもって観察していた。
そんな中、彼女が鼻歌で、前世で聞き覚えのあるアニソンを歌っていたので転生者だと気づいたのだ。
このゲームを実際にプレイしていた私とは違い、彼女は友人の佳織さんからこのゲームについて教えてもらっていたのだと言う。
ちなみにその佳織さん、前世で私が神絵師と拝み恐れ多くも交流させていただいていた食パンの袋を留めるアレさん(@menkuiGORILLA)だった。世間って意外と狭いね。
シエナたんにはたくさん相談を聞いてもらったし、助けてもらった。
というのも、私は幼少期に、ハーフである外見や名前を男子にからかわれたせいで男性と面と向かって話せず、恋愛には奥手だった。
それは乙女ゲームの世界では致命的な欠点である。
ゲームでは上手くいくのだが、実際に男性が目の前にいると上手くいかない。
彼らがゲームのキャラクターだと分かっているのにも関わらず、だ。
それでもゲームが進んでいく中でシエナたんが支えてくれたおかげで私は男性と普通に会話をすることができるようになった。
一緒になって作戦会議をしてくれて、上手くいくと自分の事のように喜んでくれて、楽しく過ごしていた。
しかしある日、彼女は悪役令嬢であるパトリシア・ヴォルテーヌからの嫌がらせを受けた末に図書塔に左遷させられてしまう。
そしてあの日、悲劇は起きた。
噴水広場でセドリック王子と焚書魔術集団が連れてきた悪魔を封印した後、私は休む間もなくエドワールに図書塔に連れていかれた。
至急、聖女の力で治療して欲しい人が居るのだと言う。
そこで目にしたのは、図書塔の司書長であるハワード侯爵と、彼の腕の中で息絶えたシエナたん、そして瀕死の状態で苦しむノア・モルガンだった。
聖女の力でノア・モルガンは一命を取り留めた。しかし、どんなに魔法を行使しても、シエナたんは二度と息を吹き返さなかった。
魔力切れを起こし途切れていく意識の中で見たのは、シエナたんを抱きしめて涙も鼻水も垂れ流しながら彼女に謝るハワード侯爵の姿。
え?鼻水は出てなかったって?
ハワード侯爵、私の回想に口を挟まないでいただけるかしら?
記憶の解像度を350dpiにしたらきっと見えるはずよ。
ともかく、それから私は助けられなかった後悔を抱えたまま、最初のジネット・エルランジェとしての一生を終えた。
その後、なぜか私は幼い頃の自分に戻っていた。
過去に転生したのだ。
私はそれをチャンスと思い、シエナたんを生き残らせることを決意した。
しかしどれだけ頑張っても、先回りしても、建国祭の最終日になればシエナたんはこの世から消えてしまう。
彼女が本来はゲームに存在しない人物だからゲーム補正で消されてしまうのかと諦めかけることもあった。
エンディングで功績を称えられ、どれだけ深く攻略対象から愛されても、報われない思いだけが心を支配した。
ゲームのエンド後、どんなに幸せな家庭が築かれようとも、深く突き刺さった棘として残っていた。
繰り返す悪夢。
本当に乙女ゲームの世界なのか疑いたくなる。
何度もこの世界を呪った。
何度も投げ出したくなった。
それでも残酷なことに、ジネット・エルランジェとしての一生を終えれば私の意思に反してまた私は子どもの頃に戻る。全てを覚えている状態で。
悲劇が待っているは分かっていても、転生して彼女に出会うたびにこの笑顔を守りたいと思い行動してしまう。
一度、シエナたんにこの悲劇を打ち明けたことがあった。
彼女はショックを受けた顔をしたが、すぐにふわりと笑って、「シエナはバグみたいなものだから仕方がないよ。私の分までジネットが幸せになってね」と言ったのだ。
そんなこと言われたら、なおさら守りたくなった。
ついに2つ前の転生では行き詰まり、イチかバチかでハワード侯爵に事情を説明した。
すると彼はノア・モルガンに相談して転生の魔法を編み出してもらい、彼もこのループに加わることに成功した。
上手くいくことばかりではなかった。どちらかといえば、上手くいかない事ばかりだった。
死亡回避の作戦とはいえ、悪役令嬢みたいな態度でシエナたんに接するのはかなりのストレスだったし、これが正解なのかわからなくて不安だった。
正直私だってシエナたんの手作りお菓子食べたかったし、シエナたんがお兄様と微笑ましい再会をしている様子を毛穴が見えるくらい近くで拝みたかったものである。
貴重な瞬間を逃して悔しいわ。
それでも今、念願かなって目の前にシエナたんがいる。
私の前で、確かに生きている。
この気持ちは、言の葉に変えがたいものだ。
パッと出のくせにシエナたんの腕の中に居るハワード侯爵は許しがたいが、彼女のために裏ボス級に強くなったその努力を知らないわけではない。
乙女ゲームに需要があるのか疑いたくなるほどの能力値をつけて現れたこいつを見て驚かずにはいられなかった。
今日だけは許してやろう。
今日だけはな。