betrayal~元彼御曹司との不倫~
「俺の前で泣いていいのに」

「え?」

「昔も、俺の前で泣けば良かったのに」

この人の言う、昔とは、中村春馬と別れ話をした時の事だろうか?


「もし泣いてたら、何か変わった?」

泣くどころか、この人とは私が一方的に別れると怒鳴って別れたな。

「変わってたよ。きっと。
泣いて他の女と結婚しないでって十和子に言われたら、俺は何が何でも十和子を選んだのに…」

「…そんな事、今さら何とでも言える」

だから、真に受けてないけど。
ただ、もしこの人の言うようにそうなっていたら、私はこの人とどうなっていたのだろう?と、考えてしまう。
今もこの人と一緒に居て、結婚していたり…。

腕を強く引かれて、そのもしもの妄想から現実に戻されたような感覚がするけど。
気付いたら、中村春馬の両手で強く抱き締められていた。
もう、妄想なのか現実なのか分からないけど、この人の腕の中はとても安心する。
凄く胸がドキドキとしているけど、気持ちはとても穏やかで。

「十和子、好きだよ」

その言葉と同時に中村春馬の顔が近付いて来て、そっと唇が重なった。
身長差があるから、私からもほんの少し背伸びするようにこの人の首に腕を回した。

昔と変わらない唇の感触に、酔いしれてしまう。
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