betrayal~元彼御曹司との不倫~
「私、零斗と別れた」

コップを持ち、こちらに戻って来て腰を下ろした中村春馬にそう言うと、酔っている私に目を向けて、そうだろうね、と言いたげな表情を浮かべている。

「今日、十和子もそうだけど、真田も暗かったから」

今朝、出勤前に零斗とは別れ話をして、会社では普通に過ごしていたつもりだけど。
暗かったのか。私も零斗も。
零斗の事は今日はあまり見ないようにしていたので、よく知らなかったけど。

そして、今日は零斗の浮気相手の三浦さんは体調不良で休んでいて。
その顔を見なくて良かったと思うけど、零斗と三浦さんが昨日会ってどうなったのか、気になった。
今日、三浦さんが来ていたら彼女の反応で、零斗と上手く行ったのかどうか分かったけど。

いや、今日休んでいる時点で、零斗とは上手く行かなかったのか、と思うのが妥当か。

なら、私は零斗と別れない方が良かったのか…。
でも、私も目の前のこの人と浮気してしまった。

「真田の事、凄い好きだったんだな?」

その声がとても優しくて、素直に頷いた。

「そうみたい。別れてみて、思ったより好きだったみたい」

零斗と別れた事もそうだけど、目の前のこの人と浮気した事も後悔してしまう。
私迄浮気してなければ、零斗と三浦さんとの事に目を瞑って、別れない事も出来たのかもしれない。

「…そうか。それは凄い妬けるな」

冗談を言うように口元は笑っているけど、目は切な気に細められている。

本当に、この人は私を今も好きなのだろうか?
そんな苦しそうな表情でそう言われたら、そうなのかって思ってしまう。

「中村部長、今夜私から呼んどいてあれなんですけど。
私は中村部長と不倫関係を続けるつもりはなくて」

ほんの数秒前迄は、そのつもりで中村春馬をこの部屋に呼んだのに。
今の私は、もう後悔を重ねたくない。

「そっか」

私の本心が伝わったのか、いつものこの人とは違いあっさりとそれを受け入れてくれる。

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