18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~
それは夏休み前のことだった。
伊吹は学校に来ていたが、授業はさぼりがちだった。
やりたいことなど何もなく、適当に学校に来て過ごして、たまに友達と街で遊んで、毎日だらだらと過ごしていた。
そんなある日のこと、面倒な日直の当番で担任から資料のプリントと本を数冊持っていってほしいと頼まれ、めんどくせぇと思いながら運んでいた。
あまり前を見ていなかったので、曲がり角でうっかり壁に腕が当たって、抱えていた本やプリント類がバラバラと散らばった。
「やっちまった……めんどくせぇ」
足下の現状を見てイライラしていると、女子生徒が近づいてきて声をかけてきた。
「大丈夫?」
別のクラスで、よく知らない女子だ。彼女はしゃがみ込んでそれらを拾ってくれた。
「あー、どうも」
と伊吹はぶっきらぼうに礼を言った。
全部拾うと、彼女は軽く会釈をして立ち去ってしまった。
それを見送ったあと伊吹が足下を見ると、生徒手帳が落ちていた。
片手で本と資料を抱え、もう片方の手でそれを拾い、名前を確認した。
『秋月いろは』
伊吹は用事を終わらせたあと、彼女のクラスに行った。
そして、近くの人間に彼女を呼んできてもらうように伝えた。
すると、程なくして呼び出された彼女が伊吹のところまでやって来た。
ただ、落とし物を渡すだけだ。
「これ、さっき落とした」
伊吹がそう言うと、彼女は驚いた顔をして、それからすぐに眩しいほどの笑顔になった。
「気づかなかった。よかった。届けてくれてありがとう!」
いろはの声と笑顔に、伊吹は心を全部もっていかれた。