18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~
朝陽が急に立ち上がり、少し歩いて振り返った。
「ねえ、絢くん。飲みにいかない?」
「誰が……ていうか名前で呼ぶ許可はしていない」
「いいじゃない。あたしと絢くんの仲でしょー」
「は? 冗談じゃない。誰が君と……」
絢は心底嫌な顔をして頭を抱えた。
朝陽は絢に近づいて、笑って言う。
「ハルくんの話、聞きたいでしょ?」
「別に。君より多く知ってるから」
「じゃあ、ふたりでハルくんの話で盛り上がろう」
「だから、誰が君と……」
目の前の朝陽は、ゆらりと歪んで見えた。
いや、これは、こちらの視界が揺らいでいるのだ。
「ねえ、絢くん。我慢しなくていいよ」
言われた途端、絢は涙腺が崩壊して、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
ただ、朝陽を見つめたまま、瞬きもせずに泣いた。
失恋を、本当の意味で自覚した瞬間だった。
朝陽は立ったまま、絢の肩を抱いた。
絢は朝陽の腕をつかんで、抱きついた。
周囲から見れば、滑稽な姿かもしれない。
だが、絢には他にすがりつくものがなかった。
祭りが終わり、周囲がだんだんと静かになっていく頃。
暗い空の下で大人の男女が抱き合って泣いている姿を、見た者は誰もいなかった。