18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~
32、はるかといろは
「はじめまして。秋月遥と申します。どうぞよろしくお願いします」
しわひとつない高級ブランドの服を着て、ピカピカに磨かれた靴を履いた幼い男の子が背筋を伸ばし、きちんとお辞儀をして丁寧に挨拶をすると、周囲はどよめきに包まれた。
「まあ、礼儀正しいわね」
「おいくつかしら?」
男の子のとなりに立つロングヘアのすらりとした女性が微笑みながら答える。
「今年5歳になりますの」
それを聞いた周囲は驚きの声を上げた。
それもそのはず、遥はその年齢にしてはあまりにも落ち着いていたからである。
他の子供たちのように走りまわることなく、常に母親のとなりにいて、大人相手に挨拶をしてまわるのだ。
毎年恒例の秋月家の桜祭りのことである。
本家の長男として恥ずかしくない振る舞いを、と母親は彼を厳しく躾けていた。
立ち居振る舞いから言葉遣い、教育にいたるまですべて、母親が決めて行っていた。
「お母さん、僕は上手にできましたか?」
遥はたびたび母親に訊ねた。
「ええ、とても素晴らしい挨拶だったわ。遥はお利口さんね」
褒められると遥はたまらなく嬉しくて、そういうときは子供らしくはにかんだ。
ただし、彼が心から笑顔になれるのは母親の前でだけだった。