18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~
「お前、何を壊したの?」
遥が訊ねると彼女は急に青ざめた表情になった。
そして、おずおずと答える。
「ままの、でんわ……かいだんにおとした」
ああ、携帯電話のことか、と遥は想像した。
恐らくこっそり持ち出して階段の上から落としてしまったのだろう。
「逃げるなよ」
と遥が言うと、いろははびくっと震えた。
「謝れ」
「ふえっ!?」
「自分の物ならいくら壊してもいいが、他人の物を壊したらまず謝れ」
「だ、って……まま、おこるもん」
「怒られても謝れ。逃げるのは駄目だ。逃げるのは、卑怯な人間のすることだ」
遥は、泣き崩れる母を置き去りにして部屋から出ていった父の姿を鮮明に思い出し、拳に力を入れた。
家族に見向きもせず、他の女のところへ行った父のことを。
病気になってもろくに顔を見せなかった父のことを。
「悪い子になるぞ」
「いやっ。いろは、わるいこじゃないもん」
「じゃあ、謝れるな?」
「うん……ごめんなさい」
彼女がしんみりした顔で謝るので、遥はおかしくなって吹き出した。
「俺じゃないよ。お前のママにだよ」
「うん、ままにごめんなさい、する」
遥は彼女の頭を撫でながら「いい子だ」と言った。
そして、彼女を抱きしめたまま、目を閉じた。
ゆるゆると、穏やかで温かい感覚が、急激に眠気を誘ってきて、そのまま心地よい眠りに落ちた。