薬術の魔女の結婚事情
お仕事の時間拘束。
それから少しして、薬術の魔女の元には少しずつゴーレムの材料や文献などが大分集まってきていた。店で購入できる材料もあったし、入手し難い材料は薬品づくりでも使う物がほとんどだったので、元から手元にあったのだ。
店の方も、初日よりは集客は落ち着き始めたものの意外と客足は引かず、その3の手伝いにとても助かっている状態だった。
しかし。
「ん、今日も遅いのかな」
用意された食事を食べながら、薬術の魔女は呟く。
本格的に魔術師の男の屋敷への同棲を始めて数日経つが、彼と顔を合わせる機会がめっきりと減っていたのだ。
「というか、新年度になってから一度も顔を合わせてない」
なぜだか全く会えていない気はしないが、薬術の魔女は魔術師の男の顔を見ていない。
魔術師の男の仕事である『宮廷魔術師』という職業が一体どれほど大事でどのくらい大変なのかなど、薬術の魔女には全く分からない。
ただ『国のために魔術の研究を行い、国の儀式に参加している』というような、一般的な知識程度、調べたら分かる程度にしか知らないのだ。
「(それに、『大変』だとしても……かなり真っ黒なお仕事なんだろうなぁ)」
魔力の性質の問題で薬術の魔女は宮廷魔術師にはなれないのだが、仮に性質の問題が解決したとしても彼の様子を見ていれば、なりたいとは到底思えなかった。
「(……というか、式神の方をお仕事に持っていけばいいのに)」
使用済みの食器を片付けていく式神達を眺めながら、小さく息を吐く。
中々会えない状態が続いていたけれど、なんとなく寂しくはなかった。ところどころに、彼がそこに居たであろう魔力の痕跡を見つけられたからだ。
×
そして、1週間ぶっ続けで開いていた開店記念が終わった。思った以上に商品達が売れたので、新しく補充をする必要があるだろう。明日は店が休みの日なので、その時に商品の補充もしようと決めた。
「ふー、とっても助かったよ。お手伝いありがと!」
店を閉めた後、薬術の魔女はその3に給料を手渡した。きちんと、1週間休みなく働いてくれた分がきっちりと詰まっている。
「こっちこそ、雇ってくれてありがとう。それに、お礼なんていいよ。前も言ったでしょ、『僕は君を助けたい』って。僕もとっても楽しかったよ」
嬉しそうにはにかみ、その3は給料を受け取った。
「旅に出るんだったよね」
薬術の魔女はその3に問いかける。
「うん。魔術アカデミーで同室だった子と二人で、色々な国や世界を見に行くんだ」
それがどうしたの、と首を傾げたその3に
「これ、あげるね」
と、小さな皮の袋を二つ渡した。手の平に簡単に収まるほどに小さくて、口が縛ってある。
「これは?」
「お守り。おばあちゃんが旅人向けのお守り作ってたの。それ思い出しながらだから、ちょっと効果薄いかもだけど」
不思議そうな様子のその3に薬術の魔女は答える。皮の素材そのままの色な袋の中身は、石や薬草らしい。
「命を守るってほど強いものじゃないけど、旅路が良いものでありますように、みたいな効果のやつ」
随分と曖昧な言いようだが、薬術の魔女なりに考えて作ったものだ。
「もう一人の方にも渡しておいてねー」
「……うん、ありがとう。ちゃんと渡しておくよ」