薬術の魔女の結婚事情

人形作り。


 ようやく、薬術の魔女に1週間ぶりの休日が訪れた。彼女はいつも通りの時間に起き、いつも通りに魔術師の男(の、式神)が用意した朝食を一人で食べる。

「えーっと。今日は補充予定の在庫の確認と、土の配合の確認をしなきゃだ」

 食べ終わって式神達にお礼を告げ、身支度を済ませて薬術の魔女は店に足を運んだ。

「ん、大丈夫そう。……薬草を抜きに行くのと、薬を作るのは来週かな」

 呟きながら店内に並べている商品達の補充を終わらせ、早朝に開いている店で簡単な買い物などをしながら帰る。

 家に帰ると、薬術の魔女は早速とばかりに作業着に着替え、作ってもらった実験用の部屋へ向かった。

「よし、さっそく作ることにしよう」

そこで、大釜に入ったゴーレム用の土の配合を吟味する。中の土は、店が終わってから買ったり集めたりした物を混ぜ合わせて馴染ませたものだ。

「とりあえず、今回はこれでいいかな」

 大きな釜に入った土をかき混ぜ棒で突きながら呟き、水の入った大きな瓶を取り出した。

「結構高かったんだから、少しくらいは動いてよねー」

 言いつつ、天然物の魔力水を瓶内に上手く(うず)を作るように振りながらドボドボと釜に流し込む。
 そして買った魔力水の瓶が2つほど空っぽになった後は、

「ふんふーん、うまく混ざってねー」

と、かき混ぜながら『うまく混ざってね』の歌(おばあちゃん仕込み)を鼻歌交じりに歌い、ゴーレムを造形するための粘土を作り上げた。

「いい感じに混ざったかな」

 少し掬い、粘土の状態を確認する。それが終われば土を少し寝かせ、ゴーレムの造形をするのだ。

「あ、そうだ。待ってる間に(ゴーレムの)設計図でも考えとこ」

 呟き、紙とペンを取り出してゴーレム用の設計図の書き込み始める。

「んー。とりあえず、薬草集めとお店のお手伝いくらいはできなきゃねー」

ふんふんと鼻歌を歌い、設計図を書き上げていった。

×

 それから数時間後。

「ん、大丈夫そう」

 粘る土をもちもちと手で(もてあそ)びながら、頷く。そして、造形するために、大釜の中身を(あらかじ)め敷いてあった撥水(はっすい)加工のされたシートの上にひっくり返す。

「(ちゃんと動けるように、関節とかも作り込まなきゃ)」

 設計図と睨めっこをしながら、薬術の魔女は手を動かした。更に(こま)かく造形ができるように様々な形状の道具も使い、表面を滑らかに(なら)したり、文字を書き込んだりする。

「ふんふふーん、ちゃんと完成してねー」

 ゴーレムに聖書の文章を刻みながら、『ちゃんと完成してね』の歌(即興)を歌った。
 造形をしていくうちに土が乾いていくので、魔力水の瓶に直接霧吹きの口を付けたもので湿り気を与える。

×

「よし、いい感じー」

 それから更に数時間後。

 ようやくゴーレムの造形が終わった。造形が終われば、後はゴーレムを乾かすだけだ。

「我ながら、結構いい出来だと思うんだ」

と、誰にともなく薬術の魔女は満足気に言う。

「……そうですねぇ、随分と綺麗な形で。粘土造形を新しい御趣味にしていらっしゃるので?」

 後ろから、魔術師の男の声がした。
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