薬術の魔女の結婚事情
安直な方が色々と楽。
そして次の休日、薬術の魔女は再度土を調合してゴーレムを作り直すことにする。丈夫になったものの、一度、ごーちゃんを作るまでに土を調合していたので再現するのは容易だった。
それに加えて、今回の土の調合では新たに薬品や魔力石を混ぜたり、書き込む術式などを変化させることで更なる改良を行った。
ちなみに、ごーちゃんはかけた術を抽出してから魔力水に浸して、柔らかくして材料に戻した。
「ごーちゃん……ごめんね」
そのようにしんみりと謝罪の言葉を言いながら、薬術の魔女は容赦なく釜に入れて練り直す。より良いもののためには、やはり犠牲は大事なのだ。
薬術の魔女は練り直した土で再度、ごーちゃん(改)と、もう一体のゴーレムを作ろうとしていた。
今回は造形がさらにやり易くなるように粘土をやや硬めで練り、書き込む聖書の不要な部位を削り内容を少し省略する。オリジナルの術式をゴーレムに組み込む事で、書き込む聖書の文章を単純にできるようにしたからだ。
「(『造形は、まともになりましたなァ』とか、あの人が見てたらいいそうだけど)」
やや口を尖らせ、薬術の魔女は前回よりも明らかに人間に造形が近付いたゴーレムを作る。どれくらい近付いたかと言うと、今回の見た目は繊細な人体模型と見間違えられる程度である。(前回との差が激しい)
それは、薬術の魔女が仕事を終え家に戻ってから数回程度、造形の練習をしたからだ。
今回は材料が増えたために、造形できたゴーレムのパーツが増えた。
「えーっと、『我は宣言する。“柔らかき風”の術式を』っと」
そして、薬草を均等に乾燥させるための魔術式を応用し、粘土を早く乾燥出来るようにする。
その他、薬術の魔女はゴーレムの素体を焼くための焼き窯を作ったり、その窯で素焼きを行って釉薬を塗り更に窯で焼いたりなどして、ごーちゃんを以前より更に丈夫なゴーレムに仕立て上げた。
その間に1週間程過ぎたが、ゴーレムがいなくてもどうにか1人で店を回し事なきを得る。
「で。もうひとりのきみは『ごーちゃん2むご!?」
ごーちゃん(改)ともう一つ、でき上がった2体目のそれに名前を付けようとした直後、背後から手で口を抑えられる。
「んーん?」
「……名付けぐらい、もう少し慎重になさい」
見上げると、魔術師の男が呆れた顔で見下ろしていた。今回もゴーレムを起動するからと、監視役で来てくれたのだ。
口を手で塞いだ彼は、薬術の魔女が付けようとした名前があまりにも酷いと言いたいらしい。
「ぷは。じゃあさ、そんなにいうんなら、きみが決めてよ」
「何故」
彼の手を外して言い返せば、魔術師の男はやや柳眉をひそめる。
「なら、文句とかいわないでよ」
「……魔術師に名付けさせる意味が、お分かりですか」
「え、なに?」
「特に、私のような宮廷魔術師になれる程に魔力を持つ者が『名付け』を行うなど、名付けた対象の運命を決める様なものなのですよ」
「へー。じゃあ、『2ごーちゃん』?」
「……何の様な作業をさせるおつもりですか」
より一層、名前が酷くなったような気がした。