薬術の魔女の結婚事情
お手伝いさん。
「じゃあ、ごーちゃんは前みたいにお店の奥での品出しの準備で、2ごーちゃんは売り物が足りなくなったらそれをわたしの近くまで持ってきてね」
薬術の魔女は腰くらいの大きさのゴーレム達にそう命令をし、ゴーレム達が店の奥に引っ込んだのを確認すると開店の準備を始めた。
店の様子は大分落ち着いてきたものの、始めの頃に来た客が再度商品を購入しに訪れてくれたり、新しい客を連れて来てくれたりして、少しずつ、顧客を得ているような気がした。
×
「ごーちゃん、2ごーちゃん、お手伝いありがとう」
閉店後、薬術の魔女は2体のゴーレムに目線が合うように膝に手を突いてやや前屈みになる。
「きみたちはすっごい良い子だねー」
よしよし、と、彼女はゴーレム達の頭を撫でて褒める。
しかし。そもそも、ゴーレムは命令通りに動くものなので、薬術の魔女の指示通りに動くのは当たり前の話だ。
「えっとね、今からお店閉めるんだけれど、夜中のお店を守ってくれるかな?」
ゴーレム達は、壊れるかメンテナンスが必要になる時以外には店の中に置いておこうと決めていた。
それは、店の防犯の為だ。
いくら厳重に魔術で壁を作ったり密閉したりして金庫や商品を守っても、この魔術社会では当然のように犯罪者も魔術が使えるのでせっかくかけた魔術式達も破壊して使えなくしてしまう。
薬術の魔女がゴーレム達を選んだのは、彼らには魔術がほとんど効かないからだ。
ゴーレムは身体に刻まれた文字を変える事以外の、外部からの魔力由来の攻撃は全く効かない。
手伝い要員でもあったが、薬術の魔女が居ない合間の店を守るためにも、ゴーレム達は必要な存在だった。
「置いていっちゃうけど寂しくない?」
薬術の魔女は問いかける。
指示されていないので動くはずはないのだが、なんだか頷いたような気がしたので
「ん、ありがとう。ちゃんと週末にはお休みあげるからねー」
と、彼女はゴーレム達に告げた。
ゴーレム達を休める日は安息日として決められており、その日は丁度、この店の休日でもある。
「一緒だから怖くないってことかな? よかったー」
ほっ、と、安堵の息を吐き、薬術の魔女は笑顔になる。
「え、ごーちゃんは2ごーちゃんも守るって?」
不思議そうな様子で、彼女はゴーレム達を見る。
「……ふんふん、『作り直されたけれど、先に生まれたから後から生まれた2ごーちゃんも守るんだ』ってこと?」
「そっか、がんばりやさんなんだね」と薬術の魔女は一体目のゴーレムに顔を向けた。
ちなみに、この一連の会話は側から見れば、薬術の魔女が1人で関節のある陶器人形達に話しかけているようにしか見えない。
しかし。彼女はまるで、そこに意識や思考の有る誰かが側におり、会話をしているかの様子を見せる。その様子を観察するような第三者も、突っ込みを入れるような存在も近くに居ないので、止められることなくそのまま続行された。5分くらい。