薬術の魔女の結婚事情

休み明け。


 今年のプレゼントは、珍しい薬草の標本セットだった。

「思ってたより多かった! なんだかお得な気分!」

と、早々に薬術の魔女は嬉しそうだ。

「良かったですねぇ」

「うん、すっごく欲しかったんだ!」

そう微笑む家族に、薬術の魔女は笑顔で答えた。
 そして、そのまま薬品の生成や家事手伝い、課題の消化などを行い、ゆっくりと家族と年を越す。
 ついでに相性結婚に選別され相手がいること、その相手がどんな相手なのか、という話をした。
 また、実家は王都よりも南の方角にあるからか、やや湿気が多く雪の降る地域で、薬術の魔女は雪遊びも存分に楽しんだ。

 休みが明ける5日前には課題を全て終わらせ、薬品の生成と家族の手伝いも終えた薬術の魔女は魔術アカデミーへと戻る。

「じゃあ、また夏ねー」

 手を振り、別れを告げる。帰る間際に、

「随分と、()()()()()()()()なんですねぇ」

と言われたが、よく意味が分からなかった。

×

 魔術アカデミーへと向かう列車の旅は、同級生に一度も会わずに終わった。
 動く方向が逆になるだけだが、薬術の魔女にとっては別方向の景色が見えるだけでも十分に楽しい旅だった。

「あ、おーい!」
「おかえり」

 魔術アカデミーの最寄り駅に着けば、友人Bと友人Aが手を振り、出迎えてくれる。

「ただいまー。お迎えに来てくれてありがと! 今年もよろしくね!」

「こちらこそよろしくー」
「はいはい。よろしくお願いするわ」

 行く時は国中が装飾だらけで煌びやかだったが、今はその装飾のほとんどが片付けられていた。特に、夜に光るような装飾はもうひとつも残っていない。
 そのままだと魔獣に狙われてしまうからだ。
 今回はどのようなプレゼントをもらったのか等の話をしたり、休暇中にしたことなどを話したりしながら3人は魔術アカデミーへと戻った。

×

 冬季休暇が終われば、少し空けて今期最後のテストが行われる。そのあと春季の休暇を挟み、後期が始まるのだ。
 イベントとしては、冬の中頃にプレゼントを渡し合う『愛の日』がある。その一月後には『愛を返す日』。
 その日に好きな人、つまり家族や友人などに花やお菓子などのプレゼントを渡す日である。また『愛の日』の名にあやかって、恋人にプロポーズをしたり、愛の告白などを行う人が多い。
 この日のお菓子のプレゼントの定番は、苦く香ばしい木の実を擦り潰し、砂糖などを入れた菓子が一般的である。砂糖や牛乳などの具合でビターな味わいやミルキーな味わいなど、様々に味が変化するので広い年齢層に人気の菓子でもある。
 薬術の魔女はその日の周辺はなるべく友人Aや友人B達と共におり、なるべく一人にならないようにしている。なぜなら、その『愛の日』と『愛を返す日』共々、変な人に絡まれるからだ。

「今年はあげるの? その婚約者の人に」

「……ふえ?」

 図書館でテスト勉強をしていると、料理本を読んでいた友人Aに問われ、虚を突かれた薬術の魔女は間抜けな声を上げた。

「なんにも考えてなさそーだね」

その様子に友人Bは苦笑いをこぼす。友人Bは魔術書に目を通していた。が、その下になんだか漫画のようなものが見えた薬術の魔女だった。

「いつも貰ってるから、きみたちにはあげるつもりだったけどさ……」

 言いながら、『愛の日だから婚約者にあげる』という理屈はわかるが、なんとなく何かが納得ができなかった。
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