薬術の魔女の結婚事情

まあそういう事もある。


 今日は珍しく友人Aと友人Bも一緒に薬術の魔女と一緒に温室で昼食を食べていた。『愛の日』などが近いこともあるが、もしかすると冬季休暇前にあった、ものが隠されたり、移動されたりしていたのを危惧してくれたのかもしれない。

「別にいいのに」

 と、不思議と心が温かくなりながらもそう伝えると、

「お馬鹿。あなた、すごく元気がなかったじゃないの」

「そうだよ。……『(こじ)れるだろうから』というよりは()()()()()()()()、こっちは何もしてないけど」

と、友人Aと友人Bに怒られた。

「それにしても、」

 友人Aは少し困った風に薬術の魔女を見、

「凄いもん食ってんね」

苦笑いしながら友人Bが言葉を続ける。

「そう?」

無論、薬草弁当のことだ。友人Aは生野菜がたっぷりと詰まったパンを、友人Bは肉類がたっぷり詰まったパンをそれぞれ持ち寄り、二人で薬術の魔女を挟んで座っている。

「んー。わたしも、二人とおんなじ薬草のスタックパニスにした方がよかったかなぁ」

友人Aと友人Bのパン達に挟(スタック)まれたそれ(パニス)を見、薬術の魔女は呟いた。

「薬草を詰め込んだだけを『凄いもん』だって言った訳じゃないよ」
「具材のこと言っても今更しょうがないわよ」

×

「ん、」
「……来たわね」

「えっなにが?」

 薬草弁当を食べ終えた薬術の魔女が食後の薬草水を飲んでいると、友人Bと友人Aは食事の手を止め、近付く人影に視線を向ける。薬術の魔女は首を傾げ同じ方向を見ると、緊張した面持ちの転入生その2がいた。

「……え、と……」

 目を泳がせ、その2は言葉を探している様子だった。

「なにか用事?」

と、薬術の魔女が訊くと、

「ごめんなさいっ! 貴女のノート、私が捨てましたっ!」

 勢いよく頭を下げ、その2は謝罪をする。

「おぅ、元気な告白だね。勢いでつい許しちゃいそうになる」

目を瞬かせ、薬術の魔女はその2を見た。

「……本当に、ごめんなさい」

 ぽろぽろと大粒の涙を溢すその2は、薬術の魔女には心の底から反省しているように見える。

「んー、許す許さないは置いといて、なんでやったか教えてくれる?」

「……はい、」

 とりあえず、なぜものを隠したのか、その理由が気になっていた薬術の魔女だった。

×

 その2は真っ赤になり、鼻を(すす)りながら自分が扶養者から『上位5位以内を取り、学生会に入れ』と言われていたこと、そのプレッシャーに耐えきれず、薬術の魔女の持ち物に触ってしまったことを話した。

「いいよ。許してあげる」

 薬術の魔女はあっさりと、そう言ってのける。

「ほ、ほんとですかぁ?!」

その2は丸い目を更に丸く見開き、ひどく驚いた様子だ。

「いいのかよ」
「……結構追い詰められてたじゃない、あなた」

 友人Bと友人Aは納得していない様子だったが、『本人がそう言うんなら』と、矛を収めた(抜いてはいなかったが)。

「いいって。つまり、きみをそこまで追い詰めた扶養者のおっさんが悪いんでしょ?」

「……」

 薬術の魔女の言葉に、その2は困ったように押し黙る。

「その様子で、きみが本当は優しい子だってのもなんとなくわかるし、金品は狙わず物も壊さずだったから許す」

その2を見て薬術の魔女はにっと笑った。

「だけどそいつ、絶対に毛枯剤でつるっ禿げにしてやんよ」

「え、」

 いい笑顔からの過激な言葉に、その2は固まる。

「だいじょーぶだいじょーぶ。そこらじゅうにある雑草で作れるやつだし、検出されても『そんな効果はない』ってなるやつだから」

「えげつないことするわね」
「流石は『薬術の魔女』」

×

「ところで、共通中間テストのあととか教室移動中にわたしを見てたのきみ?」

「どうやって勉強してたのかなって思って、見てましたけど……ごめんなさい、嫌だったんですね」

「あ。……悪意がなかったんならいいよ、うん」
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