薬術の魔女の結婚事情
修学旅行十三日目〜最終日。
各施設で三日間ずつの見学と体験が終わり、薬術の魔女達は薬猿から直接、王都にある魔術アカデミーに戻ることとなった。
この国は東西に長い形状をしているので、薬猿から王都までは二日ほどかかる。なので、汽車に乗る際には二日分の浄化装置を魔術アカデミー生たちは教師から受け取った。
修学旅行の施設見学の順序は、薬術の魔女達の班では生兎、祈羊、薬猿だ。だが、見学の順番次第では最初に二日間もの間汽車に揺れたことになっていた可能性もあったのだ。
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帰りの二日間はずっと、今回の修学旅行で楽しかったことを意図的に思い出すようにして過ごしていた。
そうでなければ、体験した(させられた、とも言える)嫌なことを思い出してしまいそうになるからだ。
「……どうしたの? 変な顔をして」
寝台汽車の食堂で食事をしていると、友人Aが薬術の魔女に問いかけた。
「ん、なに?」
「……昨日からずっと、なんだかいつもと様子が違う気がして」
実のところ、結構前から友人Aは薬術の魔女の様子がおかしい事に気がついていて、二人きりになったタイミングを狙っていたらしい。
「んー……」
これは友人Aたちは関係のない話で、話すことで友人Aを不快にはさせたくないと薬術の魔女は思った。
「……なんでもないよ」
ゆるく首を振る薬術の魔女の様子に「(……何か、嫌な事があったのね)」と察し、
「そう。あなたがそういうのなら良いわ」
友人Aはそれ以上は何も聞かなかった。
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「ねぇ、」
廊下寝台汽車の中を、泊まっている個室へ向かう途中で、その3に呼びかけられた。
「……ん?」
寝台汽車の廊下はあまり広くはない。なので、
「なにか、わたしに用事?」
と、その3に聞き返しながら薬術の魔女はやや広い設計の車両の出入り付近まで移動する。
「その記憶って、無くしたい?」
薬術の魔女の様子がおかしいと、その3も感じていたらしい。
「………べつに。消さなくていいよ」
この様子だと、その2も知っているのかな、と思いながら答える。
「じゃあ、嫌なやつに仕返しとかしたい?」
その3は悪意も敵意も、害意もなく、ただ自然な様子で薬術の魔女に問いかけた。
「……………それは、わたしがするのは筋違いだと思う」
その返答に、その3は「そっか」と短く答えた。
「気が変わったらいつでも声をかけてね」
その2は薬術の魔女には何も言わなかった。
けれど、心配そうに薬術の魔女の方を見ていたので、あえて聞かないことにしたのかもしれない。
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「んー、やっぱり自室が一番だよねー」
言いつつ、アカデミーの寮に戻った薬術の魔女は自室で思いきり伸びをした。