薬術の魔女の結婚事情
ため息。
「……」
自室のベッドに横たわり、薬術の魔女は目を閉じる。
「んー……」
身体の中を渦巻く、よくわからない感情を吐き出すように薬術の魔女は呻き声を漏らした。
一人だと、嫌でも修学旅行の楽しくなかった思い出を思い出してしまう。
友人Aやその2、その3と過ごした修学旅行の日々や、修学旅行以前の友人Bも加えた学校生活のことを考えてみても、気が付けば嫌なことを思い出してしまうのだ。
そして、なぜ生兎で、祈羊で、嫌な目で見られていたのか。その理由が、なんとなくわかってしまった。
「(……婚約者が、『呪猫の出来損ない』らしい、から)」
小さく、溜息を吐く。
今までに読んだ本や体験から、大抵の貴族は他者の不幸が大好物らしいことは分かりきっている。実際のところ、貴族以外でも他者の不幸を好むものは多いけれど。
特に、『自分は特別だ』と思っているらしい人間などはその傾向が強い。
「(……一体、どこが『出来損ない』なのかわからないけど)」
再び小さく息を吐いて、寝返りをうつ。
平民である薬術の魔女自身には、貴族のこと、さらに面倒そうな『古き貴族』の事情など知るわけがない。
「(それに、わたしが聞いたってきっと、教えてくれないだろうし)」
聞いたって、どうせ忘れてしまう。……のだろうか。多分、忘れる。
才能がなかったと言われていたが、魔術師の男には何の才能がなかったのだろう。
「(……)」
薬術の魔女は、自身の目で見た魔術師の男のことを思い出してみる。
彼は様々な魔術が使えて、魔術師の中でかなり上位の宮廷魔術師で、教えるのが上手くて、料理も作れて。
「(……わたしが思う限り、なんでもできる人なんだけどなぁ)」
思うけれど、彼らの事情など何も知らない。
「(……逆に、才能がなかったからなんでもできた……?)」
もし、彼が『出来損ないだから』あんなに努力していたのならば。
彼が、誰かに認められたくて、手を伸ばせる全てに手を伸ばした結果が今の彼だったのならば。
「…………」
そう考えた時、わけもなく胸の奥が、きゅう、と苦しくなった。
「……考えすぎかも、しれない」
小さく、口の中で呟く。
なんとなく、魔術師の男に会いたくなった。