白薔薇園の憂鬱
§3『灯台守の休日』 第1章
第1話
その日、卓己は見たこともないような、でっかい黄色の派手なオープンカーで家まで迎えに来た。
「なにこの車」
私の問いかけに、彼は相変わらずもごもごと答える。
「れ、レンタカー屋さんで、一番可愛かった、から……。借りて、きた」
「あっそ」
こういう時、助手席に座ればいいのか、後ろに座ればいいのか、いつも判断に迷う。
私は後部座席のドアに手をかけた。
「じょ、助手席に座ればいいと思うよ!」
卓己に言われ、仕方なく車の前をぐるっと回ってから、助手席のドアを開けた。
助手席といっても、座席がベンチシートのように運転席とひと続きになっている。
こんな車、初めて乗った。
私が乗り込んだのを確かめると、卓己は少し緊張した様子でアクセルを踏む。
「あんたって、いつ車の免許とったの?」
「が、学生時代には、とっておいたんだ。ほら、俺らの学部って、結構大きな作品の搬入とかあるから。車があった方が、べ、便利なんだよ」
幼稚園から高校まで一緒だった卓己と、大学になって分かれた。
私の知らない卓己の時間が出来たのは、その頃からだ。
「へー。そうだったんだ」
「てゆーか、前に一度、車で送ったことが、ある、と、思うんだけど」
「いつ?」
「い、いつって、ずっと前……」
「それって、卓己のお母さんじゃなかった?」
「ち、違うって」
「そうだったっけ」
「そうだよ」
そんなことを言われても、記憶に残っていないから、仕方がない。
私は卓己を無視して、風に吹かれなから流れる景色を眺めている。
車は静かに走り続け、住宅街を抜け事前に聞いていた海の方へ……、向かってない!
「ねぇ。行き先間違えてない?」
「あ、うん。千鶴を拾ってからいくんだ」
「千鶴? あぁ、こないだアートフェスに連れてきてた、あのきれいな子ね」
「一緒に行きたいってゆうから、いいよって言ったんだ」
「なんだ。じゃあ先にそう言ってよ」
「え? ダメだった?」
「そうじゃない」
私にだって、卓己のお友達と接するには、心構えが必要だ。
だって、彼女も有名アーティストなんでしょ?
卓己を邪魔しようとは思ってないし。
車はすぐに待ち合わせ場所となっていた、コンビニ駐車場に止まった。
「おっはよう!」
フェスの時とはうって変わって、彼女はブルージーンズに白シャツという大人しい格好で待っていた。
約束の時間より、15分は早い。
「わ、千鶴。早かったんだね」
卓己が車から降りると、彼女はにっこりと微笑んだ。
「なんかちょっとうれしくって。早く来すぎちゃった」
「じゃあ、僕と千鶴は、コンビニで買い物してくるから」
卓己は車に残された私を振り返る。
「紗和ちゃんは、ここで待っててね」
歩き出した卓己の後ろで、千鶴はにこっと笑って私に小さく手を振った。
なんで私は一緒に行っちゃダメなのかな。
まぁ別に、いいんだけど。
派手なオープンカーに一人残された私は、通行人たちのかっこうの餌食になってしまった。
みんながじろじろと好奇心丸出しの目で眺めながら去っていく。
卓己たちみたいな人種にしたら、こんな派手な車も、なんともないのかもしれない。
だけど私には、あまりにも不釣り合いな気がする。
恥ずかしいから隠れたいけど、オープンカーだから隠れるところがない。
そうじゃなかったらシートにうずくまってでも、外から見えないように隠れたのに。
しまったな。
私も卓己の後を追いかけて、コンビニに入ればよかった。
実際には10分程度しか取り残されていないのに、1時間は待たされたような気分だ。
「お待たせー」
のんびりと二人が戻ってくる。
その姿に、ようやくほっとした。
「どうしたの、紗和ちゃん」
「何でもない。早く車出して」
「なにこの車」
私の問いかけに、彼は相変わらずもごもごと答える。
「れ、レンタカー屋さんで、一番可愛かった、から……。借りて、きた」
「あっそ」
こういう時、助手席に座ればいいのか、後ろに座ればいいのか、いつも判断に迷う。
私は後部座席のドアに手をかけた。
「じょ、助手席に座ればいいと思うよ!」
卓己に言われ、仕方なく車の前をぐるっと回ってから、助手席のドアを開けた。
助手席といっても、座席がベンチシートのように運転席とひと続きになっている。
こんな車、初めて乗った。
私が乗り込んだのを確かめると、卓己は少し緊張した様子でアクセルを踏む。
「あんたって、いつ車の免許とったの?」
「が、学生時代には、とっておいたんだ。ほら、俺らの学部って、結構大きな作品の搬入とかあるから。車があった方が、べ、便利なんだよ」
幼稚園から高校まで一緒だった卓己と、大学になって分かれた。
私の知らない卓己の時間が出来たのは、その頃からだ。
「へー。そうだったんだ」
「てゆーか、前に一度、車で送ったことが、ある、と、思うんだけど」
「いつ?」
「い、いつって、ずっと前……」
「それって、卓己のお母さんじゃなかった?」
「ち、違うって」
「そうだったっけ」
「そうだよ」
そんなことを言われても、記憶に残っていないから、仕方がない。
私は卓己を無視して、風に吹かれなから流れる景色を眺めている。
車は静かに走り続け、住宅街を抜け事前に聞いていた海の方へ……、向かってない!
「ねぇ。行き先間違えてない?」
「あ、うん。千鶴を拾ってからいくんだ」
「千鶴? あぁ、こないだアートフェスに連れてきてた、あのきれいな子ね」
「一緒に行きたいってゆうから、いいよって言ったんだ」
「なんだ。じゃあ先にそう言ってよ」
「え? ダメだった?」
「そうじゃない」
私にだって、卓己のお友達と接するには、心構えが必要だ。
だって、彼女も有名アーティストなんでしょ?
卓己を邪魔しようとは思ってないし。
車はすぐに待ち合わせ場所となっていた、コンビニ駐車場に止まった。
「おっはよう!」
フェスの時とはうって変わって、彼女はブルージーンズに白シャツという大人しい格好で待っていた。
約束の時間より、15分は早い。
「わ、千鶴。早かったんだね」
卓己が車から降りると、彼女はにっこりと微笑んだ。
「なんかちょっとうれしくって。早く来すぎちゃった」
「じゃあ、僕と千鶴は、コンビニで買い物してくるから」
卓己は車に残された私を振り返る。
「紗和ちゃんは、ここで待っててね」
歩き出した卓己の後ろで、千鶴はにこっと笑って私に小さく手を振った。
なんで私は一緒に行っちゃダメなのかな。
まぁ別に、いいんだけど。
派手なオープンカーに一人残された私は、通行人たちのかっこうの餌食になってしまった。
みんながじろじろと好奇心丸出しの目で眺めながら去っていく。
卓己たちみたいな人種にしたら、こんな派手な車も、なんともないのかもしれない。
だけど私には、あまりにも不釣り合いな気がする。
恥ずかしいから隠れたいけど、オープンカーだから隠れるところがない。
そうじゃなかったらシートにうずくまってでも、外から見えないように隠れたのに。
しまったな。
私も卓己の後を追いかけて、コンビニに入ればよかった。
実際には10分程度しか取り残されていないのに、1時間は待たされたような気分だ。
「お待たせー」
のんびりと二人が戻ってくる。
その姿に、ようやくほっとした。
「どうしたの、紗和ちゃん」
「何でもない。早く車出して」