《マンガシナリオ》婚約 ♡ 破棄 !? 同盟
第2話 婚約破棄同盟
◯学校、中庭(前述の続き)
始業式後の休み時間。
ひいろ「たっくん、…どういうこと!?」
巧「どういうことって、普通科コースに編入しただけだけど」
ひいろ「編入って言ったって、特別科コースに入れることすらすごいことなのに、なんで普通科コースに…」
巧「これも経験のひとつ。特別科コースだけじゃなく、普通科コースも体験してみようと思って」
ひいろ「なんでそんなことを…?」
巧「普段関わることがない人々と接することも、今後経営者になる者には必要だからって父さんが」
ひいろ「あ〜、なるほど。さすが、たっくんのお父さんだね」
ひいろは笑ってみせる。
しかし、本当は少し寂しかった。
ひいろ(…そうだよね。もしかして、わたしと同じクラスになりたくて…と思っちゃったけど、そんなわけないよね)
巧に気づかれないほどの小さなため息をつくひいろ。
◯学校、2年1組の教室(授業中)
数日後。
巧と隣同士の席で授業を受けるひいろ。
大好きな巧が隣で、なかなか授業に集中できない。
授業のときだけメガネをかける巧にドキドキするひいろ。
◯学校、2年1組の教室(前述の続き)
お昼休み。
女子生徒たち「やほ〜、巧!遊びにきたよ」
女子生徒たち「普通科コースってどんな感じ?」
巧と同じクラスだった特別科コースの女子生徒たちが2年1組の教室にやってくる。
巧が元クラスメイトの女子生徒たちと話しているところを教室に戻ってきたひいろが目撃する。
ひいろ(…特別科コースの女の子たちだ。地味なわたしと違っておしゃれでかわいくて、たっくんの隣にいても引けを取らない。そんなコだけじゃなく、特別科には櫻木財閥に見合うようなお金持ちの令嬢だってたくさんいる)
やはり自分では不釣り合いだと再確認するひいろ。
ひいろ(…わたしなんかよりも、たっくんにはきっとふさわしい人がいるはず)
ひいろは、切なげな表情で胸に手を当てる。
男子生徒「あっ、小野!」
そこへ、ひいろの後ろから男子生徒が現れる。
男子生徒「さっき先生が呼んでたぞ」
ひいろ「わたしを?なんだろう」
男子生徒「帰るときでいいから、職員室にきてほしいだって」
何気ない会話をするひいろと男子生徒。
その話し声は聞こえないが、その様子を横目でじっと見つめていた巧。
ひいろ「教えてくれてありがとう」
男子生徒「おう」
その2人のもとへ巧がやってくる。
巧「なに話してるの?」
ひいろ「…たっくん!」
突然の巧の登場に、驚いて振り返るひいろ。
男子生徒「たいした話じゃないよ。先生が呼んでたって言いにきてくれただけ」
巧「ふ〜ん。そうなの?」
ひいろ「うん!うん!」
頭をブンブンと縦に振るひいろ。
その場を去る男子生徒。
巧はひいろを人気のない廊下の隅へと連れていく。
巧「さっきのやつと仲いいの?」
ひいろ「え?仲いいっていうか、会えばあいさつする程度だけど」
すると、巧はひいろにぐっと顔を近づける。
巧「…ほんとに?」
キスされそうなくらいまで巧の顔が接近してきて、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして巧を見つめるひいろ。
ひいろ「ほ…ほんとのほんと!」
巧「そっか。それならいいけど」
巧はひいろから顔を話すと、ひいろの頭をやさしくぽんぽんとなでた。
ひいろ(もしかして、今のって…ヤキモチ?)
ヤキモチをやく巧にキュンとするも、ひいろはさっき巧が特別科コースの女子生徒たちと話していた場面を思い出す。
少し胸がズキンと痛むひいろ。
そして、巧の手を取る。
ひいろ「たっくん。話したいことがあるんだけど…、今いいかな?」
巧「話したいこと?まあ、俺もひぃに話したいことがあったから」
教室から場所を移すひいろと巧。
◯学校、屋上(前述の続き)
屋上にやってきひいろと巧。
2人以外、屋上にはだれもいない。
ひいろ「たっくん。わたし、ずっと考えていたことがあって…」
うつむくひいろ。
なにかを決心したように顔を上げると、巧を見つめる。
ひいろ「わたしたち、お父さんたちの口約束がきっかけで、18歳になったら結婚しようって話になって今まできたよね」
巧「ああ。それがどうかしたか?」
ひいろ「あのときはわたしもまだ幼くて、『たっくんと結婚する!』なんて言ってたけど、それがたっくんを縛っていたのかなって思って…」
巧「…縛る?」
巧(いつもと雰囲気が違うとは思ったが…。どうした…ひぃ?)
不安そうにひいろの顔をのぞき込む巧。
ひいろ「わたしが婚約者だって噂されてたら、堂々と他の人との恋愛ができないよね。たっくんは櫻木財閥の御曹司、わたしは平凡な一般人。口約束でどうにかなる婚約じゃなかったんだよ」
ひいろは笑ってみせる。
しかし、それは痩せ我慢。
ごくりとつばを呑むひいろ。
ひいろ「…だから。18歳になる前に、この婚約を破棄させてください」
目に涙が浮かびそうになるのをこらえながら、巧にゆっくりと頭を下げるひいろ。
ひいろ(たっくんはやさしいからわたしを傷つけたくないために、きっと今まで婚約破棄したくても言い出せなかったよね…)
巧とのこれまでの日々を思い出すひいろ。
ひいろ(わたしはたっくんのことが大好きだから、これ以上たっくんの重しにはなりたくない)
ひいろの告白に表情を変えることなく、ひいろを見つめる巧。
しかし、内心はとても動揺していた。
巧(婚約…破棄……。ひぃ、そんなに俺と別れたかったのか…?)
ひいろの小刻みに震える肩。
今にもあふれそうな涙を必死にこらえようとしている表情。
それを見て、胸が締めつけられる巧。
巧(…そうか。ずっと好きなままだと思っていたのは、俺だけだったのか。ひぃはやさしいから俺を傷つけたくないために、これまで仕方なく俺と付き合ってただけなんだな…)
巧はひいろの話を聞いて、あるシチュエーションを思い浮かべる。
巧「なに言ってんだよ!俺の婚約者はお前だけだ!」
ひいろ「…たっくん!」
愛おしそうに見つめ合う2人。
そんなシチュエーションを想像していた巧だが、頭の中で打ち消す。
巧は、わずかにキュッと唇を噛みしめる。
巧(ひぃが勇気を出して話してくれたんだ。俺がここでそんなこと言ったら、ひぃの重しになるだけだよな)
ひいろの両肩にそっと手を添える巧。
つらいのを我慢しながら、痩せ我慢で少しだけ余裕の笑みを見せて答える。
巧「…わかった」
その言葉に、目を見開けるひいろ。
巧が引き止めてくれるのではと、ほんの少しだけ期待してしまっていた。
返事から巧も実は別れたかったのだと思い込み、落ち込むひいろ。
ひいろ「でも、たっくん。1つだけ…お願いがあるの」
巧「なんだ?」
ひいろ「このこと…。すぐにはお母さんたちに報告しないでほしいの」
そうお願いするひいろ。
というのも、ひいろの母は幼い頃から病弱で心臓が悪い。
2人の結婚を楽しみにしていたひいろの母の耳に、もし別れることになったという話を聞かせてしまったら、驚きと悲しみのあまり発作だって起こってもおかしくはない。
ひいろ「期限は18歳の誕生日だから、…まだ1年半近くある。その間に、ゆっくり婚約破棄に向けての話を進めていきたくて…」
巧「ひぃのお母さんのことを考えると、そのほうがいいな」
ひいろ「ありがとう、たっくん」
巧「急に話したら、きっとウチの親だって驚く。18歳の誕生日までに、徐々に自然とお互いの気持ちが離れていったというようなシチュエーションをつくろう」
ひいろ「…うん!見た目は円満ってことが大前提で」
巧「ああ、わかった」
手を取ってうなずく、ひいろと巧。
こうしてここに、2人だけの『婚約破棄同盟』が結ばれた。
巧(…これでいいんだ。ひぃがそれを望むなら)
婚約破棄ということにショックを受けながらも、平気なフリをして余裕そうにひいろに微笑みかける巧。
ひいろは、隣の席での巧の横顔を思い出す。
巧が同じクラスで隣の席になり、巧のことがさらに好きになっていたひいろ。
これまで以上に、学校が終わったあとも巧に会いたくて会いたくて仕方がなかった。
ひいろ(…このままの関係を続けていたら、どんどんたっくんのことが好きになっちゃう。だから、これでいいんだ)
自分に言い聞かせるひいろ。
ふと、ひいろはなにかを思い出したようにはっとする。
ひいろ「そういえば、たっくんの話したいことってなに?」
巧の顔をのぞき込むひいろ。
巧「…ああ、そうだったな」
なぜか気まずそうに頭をかく巧。
巧「ひいろにこれを渡そうと思って」
巧は、ひいろの手のひらに鍵を乗せる。
ひいろ「これは?」
巧「…マンションの部屋の鍵」
ひいろ「マンション?…ってどこの?」
巧「俺の」
ひいろ「でも、たっくんの家って一軒家だよね?」
巧「そうなんだけど、父さんがそろそろ自立しろって言ってきて…」
ひいろ「そうなんだ!じゃあたっくん、一人暮らし始めるんだね」
巧「いや、一人暮らしではない」
巧のその言葉に、キョトンと首をかしげるひいろ。
巧「その鍵は、結婚に向けてひいろと暮らすためのマンションの鍵なんだ」
目が点になり、手のひらの上の鍵と巧を交互に見つめるひいろ。
ひいろ「…え?…え!?…それってつまり、わたしとたっくんが…いっしょに住むってこと!?」
驚くひいろ。
巧は黙ってこくんとうなずく。
ひいろ(どういうこと…!?わたしたち…婚約破棄するのに、どうしていっしょに住むことになっちゃってるの…!?)
始業式後の休み時間。
ひいろ「たっくん、…どういうこと!?」
巧「どういうことって、普通科コースに編入しただけだけど」
ひいろ「編入って言ったって、特別科コースに入れることすらすごいことなのに、なんで普通科コースに…」
巧「これも経験のひとつ。特別科コースだけじゃなく、普通科コースも体験してみようと思って」
ひいろ「なんでそんなことを…?」
巧「普段関わることがない人々と接することも、今後経営者になる者には必要だからって父さんが」
ひいろ「あ〜、なるほど。さすが、たっくんのお父さんだね」
ひいろは笑ってみせる。
しかし、本当は少し寂しかった。
ひいろ(…そうだよね。もしかして、わたしと同じクラスになりたくて…と思っちゃったけど、そんなわけないよね)
巧に気づかれないほどの小さなため息をつくひいろ。
◯学校、2年1組の教室(授業中)
数日後。
巧と隣同士の席で授業を受けるひいろ。
大好きな巧が隣で、なかなか授業に集中できない。
授業のときだけメガネをかける巧にドキドキするひいろ。
◯学校、2年1組の教室(前述の続き)
お昼休み。
女子生徒たち「やほ〜、巧!遊びにきたよ」
女子生徒たち「普通科コースってどんな感じ?」
巧と同じクラスだった特別科コースの女子生徒たちが2年1組の教室にやってくる。
巧が元クラスメイトの女子生徒たちと話しているところを教室に戻ってきたひいろが目撃する。
ひいろ(…特別科コースの女の子たちだ。地味なわたしと違っておしゃれでかわいくて、たっくんの隣にいても引けを取らない。そんなコだけじゃなく、特別科には櫻木財閥に見合うようなお金持ちの令嬢だってたくさんいる)
やはり自分では不釣り合いだと再確認するひいろ。
ひいろ(…わたしなんかよりも、たっくんにはきっとふさわしい人がいるはず)
ひいろは、切なげな表情で胸に手を当てる。
男子生徒「あっ、小野!」
そこへ、ひいろの後ろから男子生徒が現れる。
男子生徒「さっき先生が呼んでたぞ」
ひいろ「わたしを?なんだろう」
男子生徒「帰るときでいいから、職員室にきてほしいだって」
何気ない会話をするひいろと男子生徒。
その話し声は聞こえないが、その様子を横目でじっと見つめていた巧。
ひいろ「教えてくれてありがとう」
男子生徒「おう」
その2人のもとへ巧がやってくる。
巧「なに話してるの?」
ひいろ「…たっくん!」
突然の巧の登場に、驚いて振り返るひいろ。
男子生徒「たいした話じゃないよ。先生が呼んでたって言いにきてくれただけ」
巧「ふ〜ん。そうなの?」
ひいろ「うん!うん!」
頭をブンブンと縦に振るひいろ。
その場を去る男子生徒。
巧はひいろを人気のない廊下の隅へと連れていく。
巧「さっきのやつと仲いいの?」
ひいろ「え?仲いいっていうか、会えばあいさつする程度だけど」
すると、巧はひいろにぐっと顔を近づける。
巧「…ほんとに?」
キスされそうなくらいまで巧の顔が接近してきて、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして巧を見つめるひいろ。
ひいろ「ほ…ほんとのほんと!」
巧「そっか。それならいいけど」
巧はひいろから顔を話すと、ひいろの頭をやさしくぽんぽんとなでた。
ひいろ(もしかして、今のって…ヤキモチ?)
ヤキモチをやく巧にキュンとするも、ひいろはさっき巧が特別科コースの女子生徒たちと話していた場面を思い出す。
少し胸がズキンと痛むひいろ。
そして、巧の手を取る。
ひいろ「たっくん。話したいことがあるんだけど…、今いいかな?」
巧「話したいこと?まあ、俺もひぃに話したいことがあったから」
教室から場所を移すひいろと巧。
◯学校、屋上(前述の続き)
屋上にやってきひいろと巧。
2人以外、屋上にはだれもいない。
ひいろ「たっくん。わたし、ずっと考えていたことがあって…」
うつむくひいろ。
なにかを決心したように顔を上げると、巧を見つめる。
ひいろ「わたしたち、お父さんたちの口約束がきっかけで、18歳になったら結婚しようって話になって今まできたよね」
巧「ああ。それがどうかしたか?」
ひいろ「あのときはわたしもまだ幼くて、『たっくんと結婚する!』なんて言ってたけど、それがたっくんを縛っていたのかなって思って…」
巧「…縛る?」
巧(いつもと雰囲気が違うとは思ったが…。どうした…ひぃ?)
不安そうにひいろの顔をのぞき込む巧。
ひいろ「わたしが婚約者だって噂されてたら、堂々と他の人との恋愛ができないよね。たっくんは櫻木財閥の御曹司、わたしは平凡な一般人。口約束でどうにかなる婚約じゃなかったんだよ」
ひいろは笑ってみせる。
しかし、それは痩せ我慢。
ごくりとつばを呑むひいろ。
ひいろ「…だから。18歳になる前に、この婚約を破棄させてください」
目に涙が浮かびそうになるのをこらえながら、巧にゆっくりと頭を下げるひいろ。
ひいろ(たっくんはやさしいからわたしを傷つけたくないために、きっと今まで婚約破棄したくても言い出せなかったよね…)
巧とのこれまでの日々を思い出すひいろ。
ひいろ(わたしはたっくんのことが大好きだから、これ以上たっくんの重しにはなりたくない)
ひいろの告白に表情を変えることなく、ひいろを見つめる巧。
しかし、内心はとても動揺していた。
巧(婚約…破棄……。ひぃ、そんなに俺と別れたかったのか…?)
ひいろの小刻みに震える肩。
今にもあふれそうな涙を必死にこらえようとしている表情。
それを見て、胸が締めつけられる巧。
巧(…そうか。ずっと好きなままだと思っていたのは、俺だけだったのか。ひぃはやさしいから俺を傷つけたくないために、これまで仕方なく俺と付き合ってただけなんだな…)
巧はひいろの話を聞いて、あるシチュエーションを思い浮かべる。
巧「なに言ってんだよ!俺の婚約者はお前だけだ!」
ひいろ「…たっくん!」
愛おしそうに見つめ合う2人。
そんなシチュエーションを想像していた巧だが、頭の中で打ち消す。
巧は、わずかにキュッと唇を噛みしめる。
巧(ひぃが勇気を出して話してくれたんだ。俺がここでそんなこと言ったら、ひぃの重しになるだけだよな)
ひいろの両肩にそっと手を添える巧。
つらいのを我慢しながら、痩せ我慢で少しだけ余裕の笑みを見せて答える。
巧「…わかった」
その言葉に、目を見開けるひいろ。
巧が引き止めてくれるのではと、ほんの少しだけ期待してしまっていた。
返事から巧も実は別れたかったのだと思い込み、落ち込むひいろ。
ひいろ「でも、たっくん。1つだけ…お願いがあるの」
巧「なんだ?」
ひいろ「このこと…。すぐにはお母さんたちに報告しないでほしいの」
そうお願いするひいろ。
というのも、ひいろの母は幼い頃から病弱で心臓が悪い。
2人の結婚を楽しみにしていたひいろの母の耳に、もし別れることになったという話を聞かせてしまったら、驚きと悲しみのあまり発作だって起こってもおかしくはない。
ひいろ「期限は18歳の誕生日だから、…まだ1年半近くある。その間に、ゆっくり婚約破棄に向けての話を進めていきたくて…」
巧「ひぃのお母さんのことを考えると、そのほうがいいな」
ひいろ「ありがとう、たっくん」
巧「急に話したら、きっとウチの親だって驚く。18歳の誕生日までに、徐々に自然とお互いの気持ちが離れていったというようなシチュエーションをつくろう」
ひいろ「…うん!見た目は円満ってことが大前提で」
巧「ああ、わかった」
手を取ってうなずく、ひいろと巧。
こうしてここに、2人だけの『婚約破棄同盟』が結ばれた。
巧(…これでいいんだ。ひぃがそれを望むなら)
婚約破棄ということにショックを受けながらも、平気なフリをして余裕そうにひいろに微笑みかける巧。
ひいろは、隣の席での巧の横顔を思い出す。
巧が同じクラスで隣の席になり、巧のことがさらに好きになっていたひいろ。
これまで以上に、学校が終わったあとも巧に会いたくて会いたくて仕方がなかった。
ひいろ(…このままの関係を続けていたら、どんどんたっくんのことが好きになっちゃう。だから、これでいいんだ)
自分に言い聞かせるひいろ。
ふと、ひいろはなにかを思い出したようにはっとする。
ひいろ「そういえば、たっくんの話したいことってなに?」
巧の顔をのぞき込むひいろ。
巧「…ああ、そうだったな」
なぜか気まずそうに頭をかく巧。
巧「ひいろにこれを渡そうと思って」
巧は、ひいろの手のひらに鍵を乗せる。
ひいろ「これは?」
巧「…マンションの部屋の鍵」
ひいろ「マンション?…ってどこの?」
巧「俺の」
ひいろ「でも、たっくんの家って一軒家だよね?」
巧「そうなんだけど、父さんがそろそろ自立しろって言ってきて…」
ひいろ「そうなんだ!じゃあたっくん、一人暮らし始めるんだね」
巧「いや、一人暮らしではない」
巧のその言葉に、キョトンと首をかしげるひいろ。
巧「その鍵は、結婚に向けてひいろと暮らすためのマンションの鍵なんだ」
目が点になり、手のひらの上の鍵と巧を交互に見つめるひいろ。
ひいろ「…え?…え!?…それってつまり、わたしとたっくんが…いっしょに住むってこと!?」
驚くひいろ。
巧は黙ってこくんとうなずく。
ひいろ(どういうこと…!?わたしたち…婚約破棄するのに、どうしていっしょに住むことになっちゃってるの…!?)