魔王と呼ばれた結界師は王女様がお好き
「え? 頬へキスしただけですが……?」

(唇にキスしようとしていたのはあなたですよね?)

「頬へキス、“しただけ”⁉」

 事実を口にしたら驚愕された。
 本当に何なのだろう?
 自分からもっとすごいことをしようとしていたはずなのに……。

(あ、もしかして自分からするのは良いけれど相手からされるとものすごく照れるタイプの方なのかしら?)

 思いついたことを確かめるように、ユリアは立ち上がってジェラールに近づく。
 だが、一歩近づくと一歩下がられ距離は縮まらない。

「……」

(……なにかしら。立場が逆転したような気分だわ)

 《ウサギ姫》と呼ばれる自分が魔王と呼ばれる男を追い詰めているとは……。

(あらやだ。ちょっと楽しいかも……)

 ニヨッと歪む口元。
 それを隠すように手を添えたユリアは、出来るだけ優しく見えるように笑みを浮かべる。

「そんなに怖がらないでください。私は《ウサギ姫》ですよ?」
「こ、怖がってなどいない。ただ、その……積極的な姫ならば対応を変えねばと思っていただけだ」
「積極的って……あなた様は唇にキスをしようとしたではありませんか」

 流石に呆れて指摘すると、また赤さを取り戻した顔で叫ばれた。
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