【極上溺愛】エリート鬼上司は無垢な彼女のすべてを奪いたい
「あの、これ落ちてましたよ」
背後から声をかけられて、彼が振り向く。賢人さんの向こうで男性物のハンカチを差し出してるのは、可愛らしい雰囲気の女性だった。奥にいる私が目に入らないのか、うっとりした表情で彼を見つめている。
「ああ、どうも……あれ、これは私のではありませんね」
「あ、そうでしたか。すみません」
「いえ。店員さんに――」
「ああそうですね。渡しておきます」
会話の途中で私の存在に気づいたのか、女性は食い気味に答えるとそそくさとレジのところに向かっていった。
「ハンカチ、落ちてたみたいだな」
自分の背後を見下ろして私に向き直る彼に曖昧に笑ってみせた。
いえ、落ちてませんでした。少なくとも賢人さんの側には。
あの女性は彼の背後でハンカチを拾う仕草をしなかった。もしかすると賢人さんがお店に入ってきたときに落としたのを目撃した、という可能性はあるけど、それなら入店してから三十分以上経った今になって声をかけてくるのは不自然だ。
そうなると考えられるのはひとつだけ。
彼女はわざと声をかけてきたのだ。たまたま拾った、あるいは持っていたハンカチを、あたかも彼が落としたように装って。