【極上溺愛】エリート鬼上司は無垢な彼女のすべてを奪いたい
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九月中でもまだ三十度に届きそうだった気温が、十月を一週間過ぎたあたりから急激に下がった。どこからともなく漂うキンモクセイの香りがようやく秋の始まりを告げる。
「ようやく涼しくなったな」
隣を歩く賢人さんが雲一つない昼下がりの空を見上げてつぶやいた。
休日の並木通りには親子連れやカップルの姿がちらほらとみられる。天に向かって枝を広げるイチョウは枝先がほんの少し黄色に変わりはじめているけれど、まだ美しいグリーン色だ。
「紅葉はまだちょっと先ですね」
涼やかな空気を胸に吸い込みながら言うと、するりと指が絡んできた。
「手を繋ぐにはちょうどいい時期だ」
ふわっと表情を崩す賢人さんに、私の胸は相変わらず高鳴る。気が付くと通りすがりの女性たちもちらちらと彼に視線を送っていた。
今日の賢人さんは白い長袖Tシャツにグレーのダブルジップパーカーを羽織り、長い脚を強調するようなブラックのスキニーデニムを合わせている。モデルのようなスタイルでどんな服も着こなしてしまう上に顔立ちも整っているから人目を引くのも無理はない。