【極上溺愛】エリート鬼上司は無垢な彼女のすべてを奪いたい
去年の今頃はこんなふうに恋人と並んで歩いてるなんて想像もできなかった。しかも相手が鬼部長の冴島賢人だなんて。
長い脚を私の歩幅に合わせてくれていた賢人さんがふいに立ち止まった。
「なあ和花、来月旅行に行かないか?」
思いがけない提案に目をぱちくりさせる。私を見下ろす彼の目もとにはほんの少し疲れの色が見えていた。
大型案件が佳境を迎えている今、賢人さんは多忙を極めている。今日もビュッフェを前々から予約していなかったら家でまったり過ごしていたかもしれない。そんな中、旅行をしている時間があるのだろうか。
私の疑問を見透かしたように、彼は微笑む。
「来月、一週間の視察が入ってるだろ。最終日が土日に被るから温泉でもどうかなと思ってさ」
今まさに統合作業を進めているSY社は、全国に五十店舗ある『きさらぎ食堂』を運営している。賢人さんはそのすべての店舗を回って従業員や経営状況を確認する業務を担っているのだ。
「でも、その視察ってたしか社長が同行されるんですよね」