【極上溺愛】エリート鬼上司は無垢な彼女のすべてを奪いたい
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裏通りを少し歩いたところに建つ五階建てビル。外階段を上って二階にたどり着いた先にそのお店はあった。入口ドアは普通のマンションと変わらず、真っ黒な看板には白抜きで可愛らしい徳利の絵柄が書かれているだけで店名はどこにも掲示がない。
ドアに『ランチ営業中』という手書きの張り紙がなかったら絶対にお店だとは分からない造りだ。
さすが、会員制というのは伊達じゃない。というか、この状況はいったいなに?
四人掛けのボックス席に腰掛けた私は、戸惑ったまま正面を見る。そこにはおしぼりを私の顔に押し付けてくる昴の姿があった。
「ほら、口についてる。おまえはホントにぼーっとしてんだから」
「ちょ、平気だから」
おしぼりを押し返す私の隣には不自然なくらいの笑顔を浮かべた賢人さんが座っている。彼は和食御膳に付いてきたお造りの器を差し出しながら優しく言う。
「和花、のどぐろ好きだったよな。これあげるよ」
「ありがとうございます……」
スーツ姿の賢人さんにランチの時間に甘やかされることはめったにないから嬉しい反面、昴もいるしほかのお客さんもいるから恥ずかしい。