【極上溺愛】エリート鬼上司は無垢な彼女のすべてを奪いたい
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富士山の絶景や温泉街で知られる日本有数の観光地。その玄関駅の名前を車内アナウンスが告げる。
特急列車を降り荷物を携えた乗客たちに紛れてホームを進むと、改札の向こうに見慣れた笑顔が咲いていた。
「和花、おつかれ」
土曜日の昼過ぎ。視察の仕事を終えた賢人さんはホワイトのニットセーターにジャケットを合わせた私服スタイルだ。
「おつかれさまです。スーツじゃないんですね」
「ああ着替えた。お楽しみの旅行だしね」
たしかに観光地でスーツ姿はとても目立つだろうなと思った。それでなくても賢人さんは人目を引く風貌をしているのだ。
「寒くないか? こっちはだいぶ冷えるだろ」
自身の首もとを覆うマフラーを外し、ふわりと私に巻き付ける。
賢人さんが愛用するグレーのストライプマフラーは、情熱的な赤を差し色に使ったハイブランド品で肌触りがとても良い。
「ありがとうございます」
鼻先に香った匂いが懐かしくて、私は自分で思っていた以上に寂しかったんだなと気づいた。