学校公認カップルの痴話喧嘩に遭遇してしまった。

気まぐれだとしても、私の高校生活にぼっちじゃない思い出をくれたのだから、恩返ししなきゃ。
彩金は、今度はゴール下に鋭く切り込んで、フローターシュートを決めた。
決めるたびに手を振ってくれるから、嬉しくなってしまう。

「次、南北さんなんだけど」

後ろに並んでいる女子に苛立たしげに声をかけられた。
いつのまにか、跳び箱の順番が来ていたようだ。

「あ、すみません」

意識を目の前の跳び箱に切り替え、跳ぶ。

「………ぷっ」

「くすくすっ……」

「やだっ、あんなのも跳べないのぉ」

「彩金ちゃんに色目使うからだよね」

「俺達の天使にふさわしくない」

小声を背に、のっそり跳び箱から降りる。
跳べないのは私の身体能力の低さのせい。
わかってはいるけれど、現実を見せつけられて恥ずかしくなった。

あんな可愛くてすごい人が近くにいて、慕ってくれてるのに、私には隣に立つ資格がないのだと言われている。
選ぶのは彩金さんで、他人は関係ないって。
彩金さんから距離を取られたら従うって。
頭ではわかってるつもりだけど。
欲張りになってしまった。

少しでも長く、一緒にいられるように、がんばろう。
まずはこの、5段の跳び箱くらい、跳べるようにならないと。

気合を入れた助走。
2度目のチャレンジは、跨ることすら出来ずに終わった。
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