愛毒が溶けたら
「大人って、すごいですね」

「え、どうして?」

「切り替えが早いというか、何というか……」


言うと、守人さんは「プハッ」と笑った。


「大事な娘さんを送る男が、しどろもどろしてたら嫌でしょ? そんな奴に娘は預けたくないって、親なら思うよ」

「……ふふ。今のセリフは、本当にお父さんが言いそうでした」

「そっか……。優しいお父さんなんだね」


その時、守人さんは私から目を逸らす。そして下を見て、地面に転がる枯葉をクシャリと踏んだ。

その横顔は、なんだか寂しそうに見える。でも、それだけじゃない「複雑な顔」にも見えた。


そう言えば守人さんは、前もこんな顔をしていた。

あれは、そう。

「あの日」、私を交番まで迎えに来てくれたお父さんを見た時――守人さんは、こんな顔をしていた。

そして、その顔は……私に、もう一人の人物を思い出させる。


――俺の事は、気にするな

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