愛毒が溶けたら
「勇運くんって、何か悩みがあるんでしょうか」

「え、勇運?」

「はい。昨日、私の弟を見た後。顔を青くして、いきなり帰ってしまったんです」

「……弟」


守人さんが復唱する。そして「聞いてもいい?」と、顔は前へ向けたまま。目だけをツイと、私に寄こす。


「弟くんって何才かな?」

「五才です。来年、小学生になります」


と言った時。


「――」


ピタリ、と。守人さんの足が止まった。

顔を見ようにも、白い吐息が何重にも重なって上手く見えない。


守人さん、今――どんな表情をしているの?


「守人さん……?」

「え、あぁ。ごめんね、何でもないよ」


何でも――の中に「話せない何か」が入っているようで。守人さんは大人だから、そういう事を隠すのが上手そうで。

だから「鵜呑みにしちゃダメ」って、分かっていたのに……。

いつものニコニコした顔に、私はつい、安心してしまった。
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