愛毒が溶けたら
「良かった~、案外すぐ近くにいたみたいだね」

「おい! 暴れてる男って誰だよ! まさか……俺じゃねーよな!?」



成希はお巡りさんに両手を拘束されながら、尚も抵抗していた。


そんな成希を宥めるためか。


お巡りさんは「お兄さんさぁ」と、軽快なテンポで質問を繰り返す。



「もう二十歳越えてるの? お酒飲める?」

「超えてる。酒は好きだけど……」

「へぇ、この辺で美味しい居酒屋知ってる?」

「あぁ、それなら――」



成希の顔が、少し緩んだ。


大好きなお酒の話を振られて、まんざらでもなさそうだ。

お巡りさんがうまい具合に相槌を打つから、鼻が伸びて天狗になっている。



「良かったら、今度いきます? 俺がいれば少しは割引もつくかもしれないし」

「え~本当? まぁ、それはさ、」



成希に向かって、ニコリと笑ったお巡りさん。

そして、そんな二人の背後に立っていた、応援に駆け付けた別のお巡りさん達。


三百六十度、グルリとお巡りさんに囲まれ、今度こそ成希は顔面蒼白になる。
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